池袋的非日常(10000hitフリリク)

西口公園で人を待っている間、セルティは思わず、目を疑った。
この場合、目を疑ったという表現は正しくないのかもしれない。なぜなら彼女には目がないからだ。目だけではなく、首から上がないのであるが。
セルティが目撃したのは、新宿で情報屋を営んでいる折原臨也と、池袋で最強と名高い平和島静雄の二人だ。

「だから、何で手前はそうなんだよ!」

いつも通り、静雄の怒声が響く。しかし、その声に殺気はない。
セルティは思わず首を傾げた。
臨也と静雄は顔を合わせるたびに殺し合いを始める、所謂、犬猿の仲というものだ。

「あのね、シズちゃん。俺はこれでも譲歩してる方だよ?嫌に決まってるでしょ、ファストフードなんて」
「何が気に食わねぇってんだよ!」
「手作り料理が好きだって、前に言わなかったっけ?」
「あれも手作りじゃねぇのかよ」

セルティは臨也とは仕事上、静雄とはプライベートで付き合いがある。
新羅の友人ということもあり、臨也を中学の頃から、静雄を高校から知っているが、二人のこんなふうに言い合っているところは見たことがなかった。

――二人は実は仲が良いのか?

こうして見ていると、仲が良さそうに見える。
お互いに相手から目を離さずにいるし、なんだかんだと声が楽しそうに聞こえる。
セルティはまた首を傾げた。

「あのねぇ、シズちゃん。シズちゃんってば本当に鈍感だよね」
「あ゙ぁ?」
「俺は、ハンバーガーでもシェーキでもなく、シズちゃんの手料理が食べたいって言ってるの」
「な、ばっ……何言って……」

おお、とセルティは音にならない声をもらす。
臨也にしてはどうにも甘ったるい言葉である。
もちろん、彼は人を騙すときには嬉々として甘い言葉を吐くのだが、この場合、臨也の言葉は本心以外の何物でもないだろう。
静雄を見れば、顔を赤くして口をパクパクと開閉している。
言葉にならない、のだろう。セルティは笑う。

「作ってくれないの?ご飯」
「だ、だって手前……その……」

しどろもどろになりながら話す静雄を見て、臨也は目を細めて笑う。

――臨也の方が一枚上手だな。

甘ったるい笑顔で、一見甘くない言葉で、臨也は静雄を押している。
困った顔で、でも負けじと臨也を睨む静雄の顔なんて、セルティはこれまで見たことない。

「セルティ、おまたせ」

待ち人の声が聞こえ、セルティはそちらを見遣る。にこにこと笑う新羅が立っていた。

『仕事は終わったのか?』
「うん、ばっちり。あれ?臨也と静雄じゃないか」

二人の様子を見ても、新羅は驚いた気配がない。
セルティはまた、首を傾げる。なぜ、新羅は驚かないのだろう、と。
そんなセルティの気持ちを察したのか、新羅はにこりと笑って二人を指差した。

「あれね、高校の頃からああなんだよ」
『高校の頃から?全然気付かなかったな……二人は実は仲が良かったのか?』
「ああ、うんそうなんだけどね。あの二人、あれで高校の頃から付き合ってるんだよ」

新羅が笑う。いつも笑っているけれど、今は楽しそうだ。
そんな新羅の言葉にセルティは驚きを隠せずにいた。
付き合う、という言葉の意味くらい、セルティはよく知っている。

『あ、ああああああああああああのふたりこいびとどうしなのか!!!!』
「気付かなかったのかい?」
『きdくわkないだろう!だってあの二人だぞ!』

まさか、恋人だったなんてセルティはこれまでまったく気付かなかった。
それはきっと、セルティだけではないだろう。
あの二人は周囲に関係を暴露するような、そんな性格ではない。

「ねえシズちゃん、作ってくれるの?くれないの?」
「こ、今度……作ってやる……」
「ありがとうシズちゃん、期待してるね」

にこりと笑う臨也の顔は、裏も表もなく、紛れもなく折原臨也の笑顔だ。
それを見て、新羅はくすりと笑った。

「臨也にとって静雄は特別で、静雄にとっても臨也は特別なんだよ。顔を合わせると本気で殺し合うような二人だけど、二人きりのときくらいはああしてるよ」
『恋人、同士なんだな……』
「かなり特殊だけどね。僕はあの二人を見て思うんだよね」
『なんだ?』
「本当に、傍迷惑だよね」

臨也と静雄を見れば、話がまとまったのか二人は駅の方へと歩いていく。
おそらく、臨也のマンションにでも行くのだろう。
セルティ同様、二人の姿を見て驚いていた者たちも動き出す。
新羅の言葉は辛辣な言葉でいて、実に的を射ている。

『バカップル、だな』

手を繋いで歩く臨也と静雄を見て、セルティはそう言って笑った。


おわり


10000hitフリリクで綾子様よりリクエストいただきました、第三者から見たバカップルな臨静でした。
傍から見るとどんな感じなのか、今まで書いたことがなかったので楽しく書きました!
書き直しも受け付けております。どうぞ申し付けて下さい。
企画にご参加いただき、本当にありがとうございます!


'10.10.12 七草


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