一人じゃない(10000hitフリリク)

いつも決まってそうだ。我慢が出来ず、いつも何かを壊してしまう。
それは物であり、人でもある。
喧嘩といっていいのか分からなくなる、一方的な暴力が終わると、静雄はいつも決まって一人になりたがった。
一人でいれば、誰かを傷つけたりしない。
一人でいれば、何かを壊したりしない。
しかし、一人でいるからといって、癒されることはない。

「なーにしてるのかな?シーズーちゃん」

嫌な顔を見た。折角人気のない路地裏を選んだと言うのに。
顔を見るなり舌打ちをすると、臨也は困ったように笑う。
この顔を見て、苛立たないことはない。
感情のままに殴っても、すっきりすることはなくて。むしろ益々苛立ちは募る。

「今手前の相手する気分じゃねぇんだよ」
「だろうね。今日は、えっと?ああ、ただのチンピラか。シズちゃんに喧嘩を売るなんて、大した度胸だよねぇ。普通だったら避けて通るのにさ」
「手前の差し金じゃねぇのかよ?」

表面上、臨也の表情は変わらない。
しかし、す、と目を細めて笑うその顔は、いつもとは違う。苛立っているときのものだ。
何でこの男の機嫌が悪くなるのだろうか。
静雄には、臨也が分からない。分かりたいと思ったことはないし、分からなくても構わない。
何があろうと、静雄にとってこの男は、折原臨也以外の何者でもないのだから。

「残念ながら、今回は俺じゃないよ。そもそも、俺だったらもっと工夫してるよ」
「そうかよ……」
「それにね、シズちゃん」

臨也の手が、静雄の頬に触れる。いつもは傷付けるだけの手が、優しく。
臨也が分からない。

「俺は、シズちゃんを痛めつけるだけなんて、そんなつまらないことはしないよ」

もっとうまくやるよ。そう笑って臨也が静雄を抱き締めた。
咄嗟のことで、静雄は逃げることができなかった。
暖かい。人のぬくもりだ。もう随分、感じていない。

「シズちゃんってさ、喧嘩をした後はいつも一人になりたがるよね。それって何?自分を守るためなの?それとも、殴った相手を守るため?」
「黙れ」
「本当に、シズちゃんって馬鹿だよね。人を殴って傷付くなんて、馬鹿みたい」
「黙れっつってんだろ!」

背中に回る臨也の手に、力がこもった。
暖かい。中毒になりそうだ。静雄は目を閉じる。
暴力を振るった後、静雄はいつも一人になりたいと思っている。それは嘘じゃない。
けれども、本当に一人になりたかったのだろうか。静雄にも分からない。
一人でいれば、誰も傷つけない。でも淋しい。
一人でいれば、何も壊さない。でも悲しい。
一人になりたいと思っていたのか、一人にならなければいけないと思っていたのか。

「ねえシズちゃん、気付いてないの?」
「あ?」
「落ち込んでるんでしょ、それって。一人で悩み込んじゃって、本当に馬鹿だよね」

色々考えて、でも一人では答えなんて見つからない。
だからと言って、誰かに話す気にもなれなかった。
どうしてこの男は分かるのだろう。大嫌いなのに。
どうして、臨也が気付くのだろう。気付いてほしくないのに。

「……だから、何だよ」
「馬鹿なシズちゃんを慰めてあげようと思って」

馬鹿だ。自分でもよく分かっている。
静雄は臨也の背に手を回し、ぎゅ、と抱き締めた。

「誰かにシズちゃんを傷付けられるのは嫌いだよ」
「は?」
「シズちゃんを傷付けるのは、俺だけでいいんだから」

暖かい温もりで、言葉は温かくない。
きっといつもよりずっと優しい言葉を言っているけれど、それを鵜呑みにしていいのか、静雄には分からなかった。

「ねえシズちゃん。俺は傷付いたりしないよ」
「臨也……?」
「シズちゃんのせいで傷付いたりしない。シズちゃんのために傷付いたりしない」
「意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ」

嘘を吐いた。本当は分かった。これは、臨也なりの慰めなのだ、と。
きっと静雄が嘘を吐いたことくらい、臨也にはお見通しなのだろうけれど。

「本当に分からないの?」
「うるせぇな!離せ!」
「やだよ。そしたらシズちゃん、また一人で落ち込むからね」

やめろやめろやめろやめろやめろ。
頭の中で静雄が叫ぶ。こんなふうに、優しくされたいなんて思っていない。
だって、誰かを傷付けた後で、自分が優しくされるなんて。
縋るように、静雄は臨也の肩を掴む。

「ねえ、シズちゃん。誰かを殴ったら俺のところにおいでよ。そうしたら、いつだって慰めてあげるから」
「手前なんかに慰められたいわけじゃねぇよ。誰が手前のとこなんか行くか」

掴んだ肩を突き飛ばして静雄が言えば、臨也はにこりと笑う。

「うん、元気になったみたいだね」

腹立たしい。けれども、確かに気持ちが楽になった。

「それじゃあ、またね、シズちゃん」

含んだ言葉を残し、臨也は手を振って歩いていく。
その背中を見送りながら、静雄は舌打ちをした。
一人が淋しいものだと、自覚してしまった。全部、臨也のせいだ。
きっと、そうやって臨也のせいにするという逃げ道も、あの男はわざと残したものなのだろう。
ずるい男だ。本当に。


おわり


10000hit記念フリリク企画にて、アーリ様よりリクエストいただきました、落ち込む静雄を慰める臨也でした。
甘々とのリクエストでしたが、少ししっとりした感じに仕上がりました。こんな臨静が好きです。
書き直しも受け付けておりますので、どうぞ申しつけて下さい。
このたびは企画に参加いただきまして、本当にありがとうございます。


'10.10.28 七草


[←prev] [next→]

[back]

[top]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -