芽生え(10000hitフリリク)

※Psychedelic Days設定な臨静+サイ津+子静


静雄が来ると約束している前日の臨也は、いつも決まって機嫌が良い。
鼻歌でも歌いそうな臨也を見ると、サイケはいつも思わず笑ってしまう。
津軽や子静は気付いていないのかもしれないけれど、臨也はひどく子供っぽい。
特に静雄が関わると、まるで子供だ。

「マスター、機嫌が良いね?」

サイケがにこりと笑って尋ねると、臨也も同じように笑う。
上機嫌だ。いつになく。
帰ってくるだろう言葉を予想しながら、サイケは臨也を見つめた。

「明日シズちゃんが来るよ」

その言葉に反応を示したのは、子静が最初だった。
津軽と二人でフォルダ内の音楽データを並べ替えていたはずなのに、いつのまにかデスクトップに出てきていた。

「シズちゃん!」
「泊まりで来るって言ってたから、子静もたくさん話せるよ」
「おはなし!たくさんする!」

子静がひそかに静雄を想っていることを、サイケは知っている。おそらく、臨也も知っているだろう。
それなのに、臨也は変わった様子がない。
羨ましい、とサイケは思う。いつだって臨也は余裕綽々な顔ができる。
サイケには、絶対に無理だ。

「シズちゃん、来るのか?」
「そうみたい。今度はお泊まりだって」
「そうか……」

こうやって津軽が嬉しそうにするのだって、サイケは複雑な気持ちになるのだ。
もっとも、静雄の恋人は臨也であって、静雄は恋人である臨也を裏切ったりしないと、サイケはよく知っているのだが。
サイケが見ていると、津軽は不思議そうに首を傾げる。

「サイケ?」
「何でもないよ、津軽。明日、楽しみだね」
「そうだな」

嬉しそうにしている津軽に、つまらないことは言いたくない。
隠し事をすれば津軽はもっと嫌がるのだけれど、たったこれきりのことでごちゃごちゃ言うなんて、格好悪い。
サイケは思う。こういうところは、マスターである臨也に似ているのかもしれない、と。


*****


『やあシズちゃん、いらっしゃい』

機嫌のよく臨也が静雄を出迎える。
その様子をサイケたちは臨也が設置した隠しカメラで眺める。

「マスター、幸せそう」
「いつもより、にこにこ!」

小さく開いたウィンドウを、三人肩を並べて見つめる。
サイケは内心、緊張していた。
隠しカメラを設置したのは臨也で、臨也は記録が残されていることくらい、分かっている。
だが、あの臨也だ。見られているのを前提に、見せつけるかもしれない。
どうなるかなぁ、とサイケはため息を吐く。

「ちゅー!ちゅーした!」

まるで実況中継だ。子静が恥ずかしげもなく言う。
サイケは思わず、顔を赤くした。
臨也と静雄は、自分と津軽と同じ顔をしている。自分たちのキスシーンでも見ているようで。照れ臭いのだ。

『シズちゃん、可愛い』
『ざけんな……』
『本心なんだけど、ね』

臨也の声はいつもと違う。それでも、サイケと同じ声だ。
まるで自分が静雄を口説いているような気分になり、サイケは慌てて普段は外しているヘッドフォンをつけた。
流れてくるのは、つい先日臨也が気まぐれに録音した津軽の唄だった。
心地よい旋律と、低く響く津軽の声。サイケは少し、心を落ち着かせた。

「あぁあああああああああ!!!」

しかし、不意に子静の叫びにも似た声が聞こえ、サイケは慌てて顔を上げる。
丁度、臨也が静雄を押し倒したところだった。静雄は抵抗していない。
咄嗟のことでサイケは一瞬、フリーズしてしまった。

『そういえば、シズちゃんには言ってなかったね』
『あ?』
『俺のマンション、隠しカメラをいくつかセットしてるんだ』
『なっ……!』
『だからさ、めいっぱい感じてくれていいよ?』
『や、めっ……ん、ぁっ……』

静雄の声に津軽が、あ、と声を漏らす。ようやく、サイケの思考回路は正常に戻った。
津軽を見ると、津軽は顔を真っ赤にして俯いていた。
どうしたんだろう。サイケが津軽の肩に手を伸ばすと、ぱしん、と叩かれる。

「津軽?」
「あ、さ、サイケ……俺……」
「つ、がる……?」

顔を真っ赤にした津軽に見つめられ、サイケは胸が高鳴るのを感じた。
触発された。完璧に。臨也と静雄に。

『ん、やめっ……』
『やだよ。シズちゃんも、もうやめられないでしょ?』
『い、ざやぁっ!』

未だウィンドウを眺め続ける子静の目を塞ぐと、サイケは慌ててウィンドウを閉じた。

「これ以上を見るのは悪いよ。だから子静、向こうで唄を歌おうか!」
「やだ!シズちゃん!みる!」
「覗きみたいでよくない、実によくない!」
「みるの!」
「子静、行こう。な?」

津軽が駄々をこねる子静をフォルダに連れていった。
途端に静かになったデスクトップに残されたサイケは、一人熱っぽい息を吐く。
プログラムだ。臨也が生み出した存在で、愛については数えるくらいしか知らない。
真似事のように、サイケは津軽にキスをする。それは確かにサイケの感情で、サイケだけの意思だ。たった今芽生えたこの気持ちも。
サイケは津軽がほしいと、確かにそう強く思った。
臨也が静雄にするように触れて、感じる津軽を見たいと思ってしまった。

「ふ、不純だ……」

おそらく、見られていることを分かった上で、臨也は行為に至ったのだろう。
しばらくは、津軽に触れない。触ったら何をするか分からない。
サイケはそう思うと、また熱っぽい息を吐いた。


おわり


10000hitフリリク企画にて、ぴあ様よりリクエストいただいた、臨静のラブラブを観察するサイ津+子静、でした。
イチャつく臨静を見て、悶々とするサイケが書いていて楽しかったです!
書き直しも受け付けますので、何かございましたらどうぞおっしゃって下さい。
フリリク企画に参加いただき、本当にありがとうございます。


'10.10.28 七草


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