有償で無限の愛

データを転送させる場合、一番簡単なのはインターフェースを使い、パソコン内のデータを取り出し、別のコンピューターに読み込ませ、それを書き込む、という手法だ。
USBメモリでデータを移しながら、臨也はシステムの構築を頭で行っていた。
サイケと津軽、それから子静の三人は、臨也が作り出した謂わばオリジナルソフトだ。
パソコン内で繰り広げられている生活は、当初の臨也の予想を遙かに超えた。

「人間みたいだ……」

小さな箱に詰められた、小さな世界。そこに住む三人は、もはや臨也の干渉なしで行動できる。
それが臨也はおかしくて、それから嬉しかった。

「またその子たち眺めてるの?病気ね」

そんな臨也を波江は冷たい目で見た。
自分と想い人に似せたプログラムを眺めるなんて、悪趣味だとでも言いたそうだ。
臨也は困ったように笑う。

「アウトプットの方法を考えてたんだよ。たとえば、音楽をパソコンに落とす。その音楽はプレーヤーに入れて持ち運べるだろう?それと同じことがこの子たちでもできるんじゃないか、ってね」
「ああ、そう」

波江にはまるで興味がないらしい。
これが彼女の弟である誠二に似せたソフトなら、もっと違った反応を見せただろう。

「ロボットにそのままインプットできたらいいんだけどね。生憎、ハードの方は専門じゃないからさ」
「そんなにご執心なら、直接会いに行ったらいいじゃない」
「シズちゃんのこと?」

臨也が尋ねると、波江は目で頷いた。臨也は、ふっと笑った。
確かに最初はおもしろ半分で作り出した。しかし、今は違う。
サイケも津軽も子静も、臨也はそれぞれを個として認識している。子供のように思っているのだ。

「馬鹿だなぁ、波江さん。シズちゃんがどうのってわけじゃないよ」
「ああ、そう」
「素っ気ないなぁ」

波江には分からないかもしれない。
臨也にとって人間は愛すべき対象だ。その行動、思考、存在を愛している。
しかし、サイケたちは違う。彼らは人間とよく似ていても、やはり違うのだ。
これまで個を愛したことがない臨也だが、サイケや津軽、子静に対する感情は、親が子を愛するものと似ている。

「俺はね、波江さん。見返りを求めない愛を完璧だとは言わないよ。だって、それは単に愛と名を付けて自分の感情を押し付けているだけで、結局は自分のためなんだ」
「そうかもしれないわね」
「だけど、そんな愛を注ぎたいと思うくらい、サイケたちを愛してるんだ」
「は?」

波江の美しく造形された表情が崩れる。

「押し付けだって構わない。愛してるからこそ、欲をぶつけてしまうものだと思わない?」

臨也が笑うと、波江は眉を顰めて臨也を見る。
きっと歪んでいる、とでも思われているのだろう。しかし、臨也は構わなかった。
歪んでいることくらい、臨也自身よく解っているのだから。

「愛なんて、多かれ少なかれ、そういうものだよ」
「持論を人に押し付けないでくれるかしら?」

波江が嫌悪するように言うと、臨也はにこりと笑った。




******




「さいけ、さいけ」

スリープ状態から目覚めたサイケを呼んだのは、子静だった。
サイケが首を傾げて答えると、子静はサイケの耳元に口を寄せた。

「さっきね、きいちゃった!」
「何を?」

きょとんとしてサイケが尋ねると、子静は嬉しそうに笑う。
何だかよく分からないけれど、良いことがあったのだろう。

「おそと、でられるかもしれない!」
「え?外に?」

目覚めたばかりでサイケはうまく頭が回らない。
子静の話し方は確かにまだまだうまくなはないが、要点だけはしっかりしている。

「あうとぷっとして、いんぷっとするの!ますたー、こしずたち、あいしてるって!」

子静の言葉に、サイケはようやく思考回路が繋がった。
しかし、驚きでうまい言葉が見つからなかった。
サイケは臨也が自分たちを愛してくれていることを、よく知っている。それでも、まさかパソコンから出そうとしているとは思わなかったのだ。

「おそと!しずちゃんにあえるの!」
「外に、出られる……?」

知識はある。しかし、体験したことは限られている。
サイケはまだ見ぬ外の世界に思いを馳せた。


つづく


'10.09.30 七草


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