みんなだいすき

それはとある休日の昼下がりのことだ。
静雄の仕事が休みと聞き、臨也は一日フリーにしていた。

「今日は津軽もいるんだな」

臨也が静雄を自分のマンションに呼んだのは、あくまでも二人きりの時間を楽しみたかったからだ。
それなのに、静雄ときたら部屋に入るなり、パソコンの方へと行ってしまう。
自分をモデルにした津軽と子静の存在を知ったとき、静雄は複雑な顔していたが、今ではすっかり気に入ってしまったらしい。
元来、静雄は素直な子供が相手なら甘いのだ。

「やあシズちゃん、いらっしゃい」
「こんにちは、シズちゃん」

並んで何やらフォルダを抱えていたサイケと津軽が静雄に笑い掛ける。
にっこり笑うサイケに反し、津軽の笑い方は控えめだ。
静雄はそんな二人におう、と返事をしながら、一人足りない、と子静を捜した。

「しずちゃん、らぶ!」

ぴょんっ!とサイケと津軽の抱えていたフォルダから子静が飛び出した。
予想外のことに静雄は驚き、目を丸くして子静を見つめる。

「びっくりした?」
「びっくり?」

くすくすと笑う津軽を真似て、子静も笑って静雄の顔を見つめる。
幼い頃の自分と同じ顔をしているのだが、それが愛らしく見えるのは表情のせいだろうか。
静雄は思わず、緩む口元を手で覆って隠した。

「あ、ああ……」
「可愛いでしょ?久しぶりにシズちゃんに会えるって言って、津軽も子静も楽しみにしてたんだよ」
「ありがとな」

そう言って笑うサイケは、二人よりも思考も言動も大人びて見える。
臨也と同じ容姿でありながら、やはりサイケは臨也とは違う。

「シズちゃん、会いたかった。子静、新しい歌、覚えたんだよ」

そっと津軽が子静の頭を撫でる。その様が、静雄には妙にくすぐったい。
自分と同じ顔をした津軽が、自分の子供の頃と同じ顔をした子静を撫でる、だなんて、倒錯的な光景でもあるのに。

「こしずのおうた、きいてくれる?」
「どんなのが歌えるんだ?」
「えっとね、つがるかいきょうふるげしき!」
「冬景色、だよ」
「あっ……!」

やんわりと訂正を入れる津軽は穏やかで、静雄はマジマジと見つめた。
自分でもこんなふうになれるだろうか、なんて考えてしまったわけではない。ただ、驚いていた。

「シズちゃん、いい加減俺も構ってほしいんだけど」
「ああ、悪い。忘れてた」
「ひどっ!いくらサイケと津軽と子静が可愛いからってよくないよ!実によくない!」
「うぜぇ!」

ちょっかいを出す臨也を睨み付ける。
津軽を作り出したのは臨也だ。それも、静雄をモデルとして。
静雄には臨也がどういうつもりで津軽や子静を作ったのか知らない。

「うぜぇ!」

不意にパソコンから可愛らしい声が響く。
静雄は驚いてモニターを見た。

「サイケサイケ、うぜぇ、どういう意味?」
「うーん……あんまり意味を教えたくはない、かな」

こてんと首を傾げる津軽に、サイケが困ったように笑う。
その隣で子静は新しく覚えた言葉を、嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねながら何度も言っていた。

「ほら、シズちゃんのせいで変な言葉覚えちゃったみたいだよ」
「わ、悪かった……」
「そこら辺はサイケがうまくやってくれるよ。それよりシズちゃん、俺は今日、一日休みにしたわけだけど」
「何だよ?」

モニターばかりを気にしてしまうのも、無理はないだろう。
毎日顔を合わせている臨也とは違い、静雄はサイケたちと滅多に会うことがない。遠くに住んでいる親戚の子供と久しぶりに会う、くらいの感覚だ。

「サイケたちとはあとでゆっくり話せばいいよ。おいで、シズちゃん」
「調子のんな、馬鹿」

赤い顔をして俯く静雄の手を引くと、臨也は嬉しそうに笑ってぎゅっと静雄を抱き締めた。
津軽や子静も可愛いと思う臨也だけれど、やはり静雄が一番愛くるしいと思う。恋人同士となってからは、特にそう感じる。

「本当に、シズちゃんって可愛いよねぇ」

興味津々、といった顔でモニター越しに見つめてくる六つの目に気付いていた臨也だったが、そんな目を気にすることなく、静雄の唇に口付けた。


おわり


'10.09.10 七草


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