瓜二つ

子静が動作するようになってから、臨也のパソコンは賑やかなものになっていた。
サイケは子静によく言葉を教えているし、津軽はそんな二人を見て穏やかに微笑む。
まるで親子のようだと思いながら、臨也は微笑ましい気持ちで三人を見つめる。
一時は嫉妬したりしていたのだが、臨也はこの三人のおかげで晴れて静雄と恋人同士となった。
おかげというのは少々違うかもしれないが、きっかけとなったのは確かだった。

そうして臨也がデートをこじつけた日、静雄は臨也のマンションへとやってきた。
電話中の臨也は静雄に待ってて、とだけ伝え、また会話を続ける。
どうやら仕事関係の電話のようだ。
静雄はパソコンのモニターを覗いた。

「あれ、来てたんだ」
「本当に喋るんだな……」
「シズちゃんこんにちは!」

ひょい、と静雄が画面を覗き込むと、嬉しそうに笑って挨拶をする。
モデルとなった臨也とそっくりの容姿ではあるけれど、その笑顔は純粋なものだ。

「津軽と子静は歌の練習中なんだよ。あっちで頑張ってるから、ちょっと外してるんだ」
「歌の練習?」
「うん、子静はまだあまり上手じゃないから。津軽も演歌しか歌わないけどね。シズちゃんは歌うの好き?」

子静が津軽と歌の練習をしている間、サイケはおしゃべりの相手を失って手持無沙汰にしていたようだった。
プログラムだというのに、本当によく喋る。サイケは津軽や子静とは違い、スムーズに会話できるのだ。
悔しいけれど、そういうところだけはすごいと思ってしまう。
にこ、とサイケが笑う。

「嫌いじゃ、ねぇけど……」
「じゃあ今度聞かせてね。あれ、マスターは?シズちゃん置いて何してるのかなぁ」
「電話だってよ。どうせろくでもねぇ内容だろうけどな」

静雄が舌打ちをしてそう言うと、サイケは困ったように笑う。
プログラムだ、と臨也は言っていたけれど、こうして会話をしているとそう感じられなくなってしまう。
モニター内からこちらを見遣るサイケは、それこそ本物の人間のようだ。
試しに静雄は、つん、とモニターを突いてみた。
サイケは一度目を丸くすると、楽しそうに笑った。

「シズちゃんっておもしろいことするね」
「……うるせぇ」
「津軽も同じことしてたよ。つん、ってやってみてた。やっぱりシズちゃんがモデルだからかな?」
「知るか。ノミ蟲にでも聞け」
「ノミ蟲?」

サイケがきょとんとした顔をして首を傾げた。
一瞬、静雄は失敗したと思った。
以前臨也が言っていた。サイケたちは、会話をして言葉を覚える、と。
会話をするのはこれで二度目だが、サイケたちは暴言を吐いたりしない。
そこまで考えて、静雄は臨也が決して暴言を吐いたりしないことを思い出した。
やることなすこと嫌味ではあるけれど、臨也は基本的に言葉遣いが丁寧なのだ。

「あー、忘れろ」
「シズちゃんは優しいね」

くすり、とサイケは笑った。
その顔はあまりにも臨也に似ていて、静雄はぴくりと眉を顰める。

「マスターの真似、似てる?」
「それ、やめた方がいいぞ。お前は素直な方がいい。あんなふうになったら終わりだぞ」
「はは、やっぱりシズちゃんってマスターのこと大好きなんだね」

にこ、と笑うサイケを見て、静雄はため息を吐いた。
臨也の声が聞こえなくなった。どうやら電話が終わったらしい。

「あんまりシズちゃん独占してると、マスターがヤキモチ妬いちゃうかも。またおしゃべりしようね、シズちゃん」

にっこり笑うと、サイケは手を振ってぴょん、とフォルダの中へと飛び込んだ。
参った、と静雄は思う。
相手はプログラムだ。しかし、見透かされているようでどうにも奇妙な気分だ。

「サイケとなーに話してたの?」
「うるせぇ!死ねっ!」

八つ当たりに臨也に向かってワイヤレスマウスを投げつけた。


おわり


'10.09.03 七草


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