はじめまして

――おうたうたうよ、ますたーのために。じょうずじゃないけど、がんばってうたうよ!

プログラム入力完了。
パソコンのモニター内で白いファー付きのコートを着た子供が目覚める。
ぱちり、と目を開け、きょろきょろと辺りを見回している。
臨也は液晶画面に映る金髪の子供を見て笑う。

「はじめまして、子シズちゃん」
「ますたー?」

子供はこてりと首を傾げる。
子シズと呼ばれたその子供は、髪の色は違えど、幼い頃の静雄と同じ容姿を持ち、尚且つサイケと同じ格好をしている。
開発者は、折原臨也。先に開発済みのサイケデリック臨也と津軽島静雄の次世代タイプだ。

「君の名前は、そうだなぁ……サイケデリック子静、なんてどう?」
「さいけ……あ?」
「ああ、難しかったかな。じゃあ子静でいいよ。ね、子シズちゃん」

臨也が微笑みかけると、子静はぱっと顔を明るくし、へにゃりと笑った。
こしず、こしず、と口の中で反芻しているその姿は、実に愛らしい。思わず、臨也も口元を緩める。
するとそこへ、サイケが姿を現した。

「こんにちは、マスター」
「やあサイケ」
「この子、津軽そっくりだね。可愛い」
「津軽じゃなくて、シズちゃんにそっくりなんだよ」

軽く挨拶をすると、サイケは臨也ににこりと微笑みかけ、次に子静の方を見た。
子静がオドオドと見上げると、サイケはそっと子静の頭を撫でる。
可愛い、と言って撫でられると、子静は真っ赤な顔をして俯く。
子供と設定をしたせいか、サイケや津軽よりも随分と可愛らしい反応をする。
もっとも、静雄の子供時代を知らない臨也が、イメージでプログラムしたからであるのだが。
サイケはともかく、津軽や子静を静雄に見られたら、その場でパソコンを破壊されてしまうだろう。
その光景が容易に浮かび、臨也はため息を吐く。

「マスター、おはようございます」
「ああ、津軽も起動したんだね。おはよう」
「見て見て、津軽!ほら、可愛いでしょう?」

津軽の姿を見とめると、サイケがぐいっと子静を津軽の方へと押しやる。
目が合うと、津軽はこてんと首を傾げた。

「ちっちゃい、シズちゃん?」

その反応に、臨也は苦笑した。静雄そっくりの津軽にそう言われると、どうにも複雑な気分である。

「ね、何て名前?あ、俺はサイケデリック臨也。サイケって呼んでね!」
「俺は、津軽」
「おれ、こしず、です」

子静がぺこりと頭を下げる。
津軽はそんな子静を撫でると、にこりと微笑んだ。
何とも愛らしい光景だ。そっくりな二人のやり取りを、サイケは嬉しそうに笑って見ている。
それを液晶から見ていた臨也は、何とも複雑な気分になる。
ため息を一つ吐くと、臨也はパソコンを落とさずにデスクを離れた。

「あら、どこか行くの?」
「ちょっと、ね」
「ああ、池袋?貴方って大概変態ね」
「褒め言葉として受け取っておくよ」

軽口を叩いて笑うと、臨也は部屋を出る前にパソコンの画面を見る。
楽しそうに笑い合っているサイケと津軽、それから子静が目に入った。

「自分で作ったプログラムながら、ちょっと妬けるね」

ぽつりと呟くと、臨也はそのままマンションを出た。
目指す先は池袋。きっと静雄はあんなふうに笑ったりしてくれないのだろうけど。
怒りに染まった静雄の顔を思い出すと、臨也は口角を上げて笑った。


おわり


'10.08.31 七草


[←prev] [next→]

[back]

[top]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -