ぶきようなこ

子静は静雄が大好きだ。静雄が遊びに来ると、いつも上機嫌になる。
直接触れ合うことはできないけれど、静雄はいつも優しい。
笑顔を見るたび、子静の心は暖かくなるのだ。
それなのに、このところそんな子静を邪魔する存在がいる。

「シズちゃんシズちゃんって、マスターの恋人なんだよ?分かってる?」

子臨。子静にとっては弟のような存在だ。それなのに生意気で、本当に苛立たしい。
いつだって子静に絡んでくるのだ。
ぷっと頬を膨らませると、子静は子臨を睨み付けた。

「うるさい!」
「へぇ、そういう言葉も覚えたんだ?感心しないね」
「こいざ、ばかっ!」

子臨はいつも邪魔をしてくる。
サイケや津軽が咎めても、口数であっさりと言い返してしまうのだ。
うまく喋れない子静は、それが羨ましくて、それからひどく妬ましかった。

「おいおい、喧嘩すんなよ?」
「シズちゃん!」
「つーか、これマジノミ蟲みてぇだな……」

静雄が子臨を見る。うわぁ、と声を出して複雑な顔をするものだから、子静はこてんと首を傾げた。
静雄の反応は子静には予想できない。その逆も、また然り、だ。
子臨は静雄を見てどんな反応をするのか、子静は気になった。

「こんにちは、平和島静雄さん」
「うわ、なんかムカつく……」
「それはこっちのセリフだよ。ていうか、遊びに来たんでしょ?ならマスターを構わなくていいの?」

サイケも津軽も静雄が大好きだ。
だから子静は、子臨が静雄に対して素っ気ない態度を取るのが不思議だった。もっとも、子臨は臨也に対してもこんな感じではあるけれど。
元のプログラムが違うのかもしれない。子静は首を傾げた。

「こいざ、シズちゃん、すき?」
「はぁ?何言ってんの?」
「ちがうの?」

静雄が好きであることは、当たり前である。子静はそう認識していた。
何しろ、マスターである臨也が静雄のことを愛してやまないのだ。そうなるのは当然だろうと思っている。
しかし、子臨の態度はどう見ても好きな人にする態度ではない。

「好き、とかさ……そういうの、簡単に言える言葉じゃないでしょ……」

ふいっ、と子臨が顔を背ける。耳が赤くなっていた。
子静はきょとんとして、また首を傾げた。

「すき、はあたたかいことば。ちゃんとつたえるとしあわせ」
「それはっ……相手も自分を好きだったとき限定でしょ」

それだけ言うと、子臨はさっさと自分のフォルダへ帰って行った。
子静には分からない。子臨の言葉も、態度も。
好きなら好きと、そう素直に伝えればいいのに。

「シズちゃん、こいざ、きらい?」
「あー……まあ、嫌いじゃねぇな」
「うん?」
「俺にもよく分かんねぇよ」

静雄に分からないことは、子静にも分からない。
こくん、と子静が頷くと静雄は困ったように笑った。
静雄の笑顔を見ると、子静はほっとする。

「シズちゃん、らぶ!」
「ああ、ありがとな」

大好きなのに、そう伝えないなんて苦しくないのだろうか。
子静は少しだけ、子臨のことが気になった。

「シズちゃん、そろそろいい?子静もいい加減シズちゃん返してもらうからね?」
「何言ってんだ、馬鹿!」
「だってさ、もう1時間も放置されてるんだよ?放置プレイは趣味じゃないんだよね」
「プレイじゃねぇ!」

所謂、痴話喧嘩だ。喧嘩は怖いことだけれど、子静はこれが臨也と静雄なりのコミュニケーションであると思っている。
羨ましいと、そう思う気持ちがないわけではない。それでも、二人がこうして楽しそうにしているなら、子静も楽しい。
にこりと子静は笑う。

「シズちゃん、またね!」
「あ、ああ、またな」
「じゃあまたあとでね」

笑顔で見送ってくれる臨也と静雄に手を振ると、子静はサイケと津軽のいるフォルダへと戻った。

「さいけ、さいけ!」

こういうとき、話し相手となるのはサイケだ。子静はサイケを呼ぶ。

「どうかしたの?」

優しい笑顔でサイケは応えてくれる。
甘やかされている、と子静も自覚がないわけではない。けれども、嬉しいのだ。サイケも津軽も、子静は大好きなのだから。

「こいざは、すきなのに、すきって、いえないの?」
「あー……」

サイケが眉を下げ、困った顔をする。

「どうして?すきっていえないの?」

きっとサイケは答えを知っているのだろう。子静はそう確信した。
マスターである臨也ほどではないけれど、サイケはたくさんのことを知っている。
羨ましいな、と思うのは何でだろう。サイケと子静は、初期設定は違えど性能に違いはないはずだ。
搭載しているシステムも同じで、製作者も同じだ。

「不器用なんだよ、子臨は」
「ぶきよう?」
「俺たちの誰よりもマスターにそっくりだ。子静もあんまり子臨を嫌わないであげてね」

優しく撫でるサイケの手は、暖かくて安心する。
子静はこっくり頷くと、サイケは優しく微笑んだ。
ちょっとだけドキドキしたけど、それは気のせいだと思うことにした。


おわり


'10.11.11 七草


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