あたらしいこ

歌を歌うために作られた子静は、日々練習に励んでいた。
今日はプログラムの再構築のため、サイケと津軽はスリープ状態。子静だけが起きていた。
臨也が言うには、サイケと津軽はプロトタイプだから、マメにチェックを行う必要があるらしい。

「いっそ全部書き直そうかな……」

臨也のそんな言葉に、子静はびくりと肩を揺らす。
書き直すとは、つまり、リセット状態。元のサイケと津軽がいなくなるのでは、と子静は泣きそうになった。

「さいけとつがる、いなくなっちゃう?」

不安そうに子静が尋ねると、臨也は優しく微笑んだ。

「違うよ、子静。データは残して、プログラムの構築を最初から変えるだけだよ」
「うん?」
「とにかく、二人はいなくなったりしないよ」
「うん!」

臨也の言うことは絶対的な真実だと、子静は信じている。
ほっとして笑うと、ぽん、と新しいフォルダが作られた。

「ますたー?」
「それ、子静へのプレゼント。一人じゃ淋しいだろう?」
「ぷれぜんと?」

子静はこてんと首を傾げる。すると、フォルダから誰かが出てきた。
津軽とよく似た着物を着ている、臨也やサイケとよく似た子供だった。

「ある意味、そいつは完成体かもね」
「あたらしいこ?」
「そう。津軽原子臨、ってところかな」

子静はじっと子臨を見つめる。

「こしず、おにいさん?」
「まあ、そうなるのかな」

子臨、と臨也が名を付けた子供は、きょろきょろと辺りを見回す。子静と目が合った。

「はじめまして、こしずだよ」

子静が嬉しそうに笑って挨拶すると、子臨は一瞬目を丸くして、それからすぐに口元を緩めて笑った。
臨也によく似ている、と子静は思った。
サイケとは違う笑い方だ。なんだか、嫌な予感がした。

「俺は津軽原子臨。君ってさ、おれより先に開発されたのに、ちゃんとしゃべれないんだね。子供っぽい」

くすり、と子臨は笑う。
一瞬、何を言われたのか子静は分からなかった。ただ、馬鹿にされたことは分かった。
子静はぷっ、と頬を膨らませ、ぷいっと顔を背けた。

「うーん……ちょっと性格に問題あるかな」
「ますたー……」
「まあ、うん、本質は俺と変わらないから仲良くしてやって」
「……はぁい」

先程まで楽しそうにしていたのが嘘のように、子静はしょんぼりとうなだれる。
臨也はそんな子静を見つめる子臨を見た。

「まったく、よく似た性格だよね」

子静がちらりと子臨を見ると、子臨は馬鹿にしたように笑う。

「マスターマスター、って、ひとりじゃ何もできないの?」
「できる!」
「何ができるわけ?ていうかさ、何でちゃんとおれのこと見ないの?子供だね」

辛辣だ。というよりは、ただのわがままなのかもしれない。
臨也は以前の自分を思い出し、困ったような笑う。
おそらく、子臨は子静が気に入ったのだろう。しかし、このままでは仲良くなんてなれやしない。

「こいざ、きらい!」
「き、嫌っ……」

泣きそうな顔でそういうと、子静は逃げるようにフォルダへと駆け込んだ。
残された子臨は、その姿を見つめたままで固まった。

「子臨、あんまり子静をいじめちゃだめだよ?」

そんな臨也の声も、どうやら子臨には届いていない。
子臨の頭には、子静に言われた“嫌い”という言葉がただただリピートされていた。

「き、嫌いって……」

そんな子臨を臨也は困ったように見つめる。
口はよく回るけど、まだまだ子供なのだ。
幼い頃の自分とは違う、そんな子臨を見て臨也は小さく笑った。


つづく


'10.10.24 七草


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