同じ姿、違う人

――愛してる。そう、アイしてるんだ。

ひっそりとした社の中、臨也は白い着物に身を包んだ青年を見つめる。
殺したいほど愛してる、彼と同じ姿を持つ青年を。
ここにいるのが自分の想い人でないことくらい、臨也は知っている。
臨也の愛している彼は、白い着物なんて着ない。いつだって場違いなバーテン服だ。

「君が俺を呼んだのかなぁ。つい返事をしたくなっちゃったよ」

臨也はクスクス笑う。
都市伝説のことは知っていた。だから応えた。
きっと、これから先、目を覚まさないのかもしれない。
それでも、応えたいと思ってしまった。
夢に現れるこの青年が、淋しそうに何度も呼ぶのだから。

「う、ん……」

目を覚ます。臨也は少しばかり驚いた。
夢に見続けたこの青年は、今まで一度だって目を開けなかったのだから。

「さい、け……?」

その目に臨也を写す。本当に静雄によく似ている。
ただし、静雄は臨也を視界に入れた瞬間、不機嫌な顔になり、怒気をまとって襲いかかってくるのだが。

「やあ、おはよう。俺は臨也だ、サイケじゃない。残念だったね?」
「サイケ、じゃない……?」

ぼんやりする青年は、臨也を通して他の誰かを見ているようだった。

「サイケ、どこ?約束、した」
「サイケに会いたい?」
「会いたい。サイケ、大事」

たどたどしい喋り方は、まるで幼子のようだ。
臨也はにこりと笑うと、青年の頭を撫でる。

「サイケに会いに行こうか。それで、君の名前は?」
「津軽。イザヤ、サイケ知ってる?」
「ああ、知ってるよ。さ、早く行こう」

サイケなんて臨也は知らない。それが人間であるかさえ、分からない。
ひとまず、ここから出るために嘘を吐いた。

「イザヤ」

同じ声だ。しかし、違う。
まっすぐ自分を見つめる津軽を見て、臨也は思わず苦笑した。

「何?」
「サイケ、泣いてる?」
「どうだろうね」

臨也は首を傾げる。嘘は言わなかった。
静雄と同じ姿を持つ津軽は、純粋な子供だった。あまり嘘は重ねたくない。
そう思った自分に、臨也は内心苦笑した。
日頃、己の欲望のまま、人を壊しているというのに。

「……サイケ、怒ってる?」
「津軽はどっちがいいの?そっちを選べばいい」

津軽はサイケしか見えていない。
少し、おもしろくない。
そんな気持ちを押し隠して、臨也は笑った。

「笑ってる、といい」
「……そう」

津軽を連れて社を出る。
この先がどんな場所なのか、臨也は知らない。そこにサイケがいるのかさえ。
それでも、淋しそうにサイケを呼び続ける津軽を、連れ去りたいと思った。
それは優しさなんかでなく、単なる気まぐれだ。あるいは興味本位。

「イザヤ」

津軽が臨也を呼ぶ。静雄と同じ声で、優しく。

――ハマりそう。

それが静雄でないと分かりながら、臨也は楽しんでいた。
静雄に甘く呼ばれるなんてことは、天地がひっくり返ってもあり得ない。
しかし、津軽は静雄と同じ声で甘えるように臨也を呼ぶ。

「イザヤ」

つい、と手を引かれる。臨也は驚いた。
津軽を見れば、表情を浮かべないまま、津軽は臨也の手を握る。

「津軽?どうしたの?」
「サイケの、声がする」
「サイケの?」

臨也の耳には何も聞こえなかった。
臨也が首を傾げると、津軽は小さく笑った。

「サイケの、唄が聴こえる」

控えめでありながら、それはそれは嬉しそうに、津軽は笑った。


つづく


'10.08.28 七草


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