発散する収束

臨也が笑い続ける。静雄はそれを怪訝な顔で見ていた。
まったく意味が分からない。
ちら、と視線をサイケと津軽に移す。
臨也そっくりのサイケと、静雄そっくりの津軽。
静雄にはまるで、自分が臨也と抱き合っているように見える。

「感動の再会だね。さて、これからどうしようか?」
「あ゙ぁ?」

ひとしきり笑い終えたのか、臨也は静雄を見て言う。
その感動の再会、とは、おそらくサイケと津軽のことを差しているのだろう。
静雄は臨也を見た。
どうしようか、なんて言う臨也だが、状況について一番知っているように思えた。

「シズちゃんとこのままここにいるっていうのも悪くないけど、生憎俺はまだまだ死にたくないからね」
「ざけんな!俺も死ぬ気なんかねぇよ!」
「そう、だから起きないといけない。元凶は津軽とサイケ、どっちかな」

にや、と臨也は笑う。嫌な笑みだ。静雄はため息を吐いた。
容姿はよく似ていても、やはり臨也とサイケは違う。サイケはこんなふうに笑ったりしなかった。
もっとも、静雄はサイケのごく一部しか知らないのだけれど。

「サイケが津軽を起こすために、身代わりを呼んだっつってた」
「そう……津軽の言い分と違うね」
「は?」

ふむ、と臨也は顎に手をやり、考え込むようなポーズを取る。
それが白々しく見えるのは、臨也の日頃の行いだ。
すべて分かった上で、臨也は誘う声に応えたのではないのだろうか。
静雄は臨也からの手紙を思い出していた。

――眠り続けてる、大切な人がいる。

つまり、それは津軽のことだろう。
静雄が津軽の視点から夢を見ていたのとは違い、臨也はサイケの視点で夢を見ていたのかもしれない。
食い違う情報は、そのためだろう。

「津軽はね、サイケとの約束を破ったこと、すごく後悔しているらしい。全部自分の責任だ、って言ってたよ。自分が呼んでしまったんだ、ってね」
「どういうことだよ?」
「儀式の失敗がすべての元凶だった。眠りながら、声は出なくても目は見えなくても、津軽には聞こえてたみたいなんだよね。サイケが何をしたのか」

静雄が夢見ていたとおりだ。見えない、話せない。けれども、聞こえる。

「だから、俺を呼んだのかと思ってたんだけど、ちょっと違うっぽいね」
「手前……勿体ぶってねぇで話しやがれ!」
「あのね、シズちゃん……俺だって全部知ってるわけじゃないんだよ?矛盾を潰して仮説を組み立てながら話すのは、結構面倒なんだからね」

確かに、そうかもしれない。静雄はぐっと押し黙った。
そんな静雄を見ると、臨也は肩を竦めた。

「津軽には俺、サイケにはシズちゃん。さて、どういうことなのか……」

まだ仮説の段階らしく、臨也は考えている。同じく、静雄も考えていた。
そもそも矛盾があることに、二人は気付いていない。
サイケは確かに眠る津軽のところにいたはずであり、眠っている津軽は移動などできない。
ならばなぜ、臨也は津軽と会い、静雄はサイケと会ったのか。
本来であれば、同時に出会うはずだ。

「静雄君、ありがとう」
「イザヤ、ありがとう」

二人の思考を止めたのは、サイケと津軽の声だった。
それぞれ異質な色を持つ二人は、幸せそうな顔をしている。

「会えてよかったな」
「約束守れてよかったね」

だから、臨也と静雄もそう言って笑い掛けた。
元凶は、何なのだろうか。臨也にも静雄にも分からない。
サイケと津軽は手を繋ぎ、今いる回廊をきょろきょろと見た。そして、同時に首を傾げる。

「おかしいな……」
「うん、変だね」
「神前の社が、“ふたつ”ある?」

津軽は神前の社で眠ったまま、移動していない。
サイケは津軽の傍から、離れていない。
それなのに、二人はこの回廊で再会した。
サイケと津軽の疑問に、静雄は首を傾げた。そもそも、静雄はこの社の造りを知らない。
それは臨也も同じだったのか、はっとしたように今入ってきた戸を振り返る。そこに、戸はなかった。
まっすぐ回廊が外へと延びている。

「……何でだ?」
「どういうことなんだろう……」

臨也とサイケが同時に疑問を口にする。
静雄は眉を顰め、今まで戸のあった場所を見つめた。
少し目を離した隙に扉が消えるなんて、狐にでも包まれた気分だ。

「狐……」
「津軽?」

ぽつりと、津軽が言葉をこぼす。
サイケと繋いでいない方の手で、すっと真っ直ぐ指差した。さっきまで、サイケと静雄のいた社だ。
誰かが立っている。
狐の面を被った、黒い衣冠を纏った誰か。サイケと津軽は知っている。その衣装は、祭司のものだ。

「祭司様……?」

津軽が首を傾げる。静雄はじっとその人物を見つめた。
あの面は、サイケのものと同じだ。
祭司がリン、と鈴を鳴らす。
あ、と誰かが声をこぼした。瞬間、辺りが真っ白になった。
誰の姿も見えない、声も聞こえない。静雄は何が起こったのか、さっぱり分からないまま、意識を失った。

――ありがとう

遠くで、誰かの声が聞こえたような気がした。


つづく


'10.09.07 七草


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