賽は投げられた
手に入れたい。
臨也はどうしようもなくほしいものがあった。
壊してでもほしい。
誰にも渡したくない。
それほどにほしいものだ。
トランプの山から一枚抜くと、臨也は壁に向かって投げた。
もちろん、刺さるわけではない。
壁に当たって床に落ちるカードを、臨也は黙って見つめる。
その目は、狩りをする動物が狙いを定めるときのものに近かった。
どうしてもほしい。
叩きのめしてでも、
陥れて、貶めて、堕として。
弱ったところを介抱するのも悪くない。
ただ、あれが臨也の手を受け入れたりすることなど、あり得ない話だが。
「憎くて疎ましくて、でも愛しくて堪らないよ」
ねえ、シズちゃん、とトランプに向かって言葉を投げかける。
それから数分後、臨也は携帯を取り出してあちこちへと情報をまく。
すべては、たった一つの、ほしいものを手に入れるために。
賽は投げられた。
おわり
'10.08.12
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