まずはオトモダチから

――この状況……どうしてくれようか。

臨也が自宅兼事務所に帰ると、そこには静雄がいた。
あり得ないことに、波江と仲良く料理中だ。
一瞬、臨也は目を疑った。

「貴方、普通に料理とかできるのね」
「これくらいはな」
「ふぅん……」

この二人、仲が良いはずがない。
静雄はともかく、波江の方は静雄に対して良い感情を抱いてなかったはずだ。
めずらしく臨也が面食らっていると、波江が臨也の帰宅に気付いた。

「ああ、帰ってたのね」
「ただいま、波江さん。
ねえ、これってどういう状況?」

波江の言葉に、静雄が振り返る。
いつものバーテン服にエプロンと、臨也としては少々惹かれる格好だ。

「おかえり」

ちらりと一瞥しただけで、静雄は素っ気なくまた調理に戻る。
しかし、臨也は目を丸くした。
あの静雄から、おかえり、などという言葉が聞けるとは思わなかったのだ。

「えーと、シズちゃん?」
「んだよ?」
「何、してるの?」
「夕飯作ってんだよ。
他に何してるように見えんだ?」

見れば分かる。料理だ。
臨也が聞きたいのはそんなことではない。
なぜ、臨也のマンションで波江と一緒に料理をしているのか、だ。
若干混乱する臨也を、波江はおもしろいものを見る目で見た。

「誠二に会いに池袋に行ったら、偶然会ったのよ。
鍋をするのに貴方一人じゃ可哀相だと思って誘ってあげたの」

自分は一緒に食べる気がないらしい。
波江の言葉に臨也はため息を吐いた。
決して一緒に食べたいわけではない。
何と言ったのか、と思っただけだ。

「情に厚い優しいシズちゃんは、波江の言葉にまんまと乗せられてここにいるわけね。
そういえば、この前新羅たちと鍋だったらしいじゃない。
また鍋食べたいの?」
「だってお前、一人鍋はないだろ」

少し、臨也は悲しくなった。
因縁の相手に哀れみの目で見られるだなんて、実に不本意だ。
静雄が情に流されることくらい、臨也は重々承知していたが、まさかその情けを自分にかけられるとは思わなかった。

「シズちゃんってさ、本当に時々分からないよ」
「はぁ?」
「いや、うん、いつも分かるわけじゃないけど」
「意味分かんね」

悪くないと思うのは、臨也が人には言えない感情を静雄に対して持っているからだ。
波江や新羅あたりには気付かれているが。

「じゃあ私はそろそろ帰るわ」
「そう。お疲れ様」
「あとよろしくね」

ああ、誠二、と言って立ち去る波江を、静雄は頷いて見送った。

――さて、ますます訳の分からない状況になったわけだ。

池袋に済む人間がこの状況を見、おそらく一斉に首を傾げるだろう。
臨也は何をするわけでなく、料理する静雄の姿を眺めた。

――悪くない。
――むしろすごくいい。

波江に多少感謝しつつ、臨也はただただ黙っていた。

「何だよ?」

じっと見つめていると、静雄が振り向く。
睨みつけられているのだが、この状況では今一つ迫力に欠ける。

「ねぇシズちゃん、結婚しようか?」

そう臨也が言った瞬間、静雄は目を見開いた。
頭のわいていることを言ってる自覚は、臨也にはない。
ただ、思ったままを口にしただけだ。

「手前……意味分かんねぇこと言ってんじゃねぇよ!
つーか、あり得ねぇ!馬鹿か!馬鹿だな!
一回死ね!」

しかし、そう言っている静雄の顔は真っ赤で、臨也は楽しそうに微笑んだ。

「じゃあまずはオトモダチから、ってのはどう?」
「ざっけんなぁあああああ!」

壁に静雄の放った包丁が刺さる。
顔を真っ赤にさせたままの静雄は、怒っているというより照れているようにしか見えない。
臨也は赤い目を細めると、それはもう楽しそうな顔で笑った。
これはこれで、楽しめそうだ、と。


おわり


'10.08.12


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