happy birthday
今日が誕生日だ、と気付いたのは、もう日付が変わろうとしているときだった。
祝ってくれる人がいないわけではないけれど、静雄にとって誕生日は、そう大した日ではない。ただの平日だ。
もうすぐ、28日を迎える。だからといって、何もないけれど。
デジタル時計が0時を示す。
不意にドアが開き、冷たい風が吹き込んでくる。
「誕生日おめでとう、シズちゃん」
見れば、臨也がそこに立っていた。
何をしにきた、と静雄が尋ねるより早く臨也は部屋に入り込む。その手には白い箱があり、有名なケーキ屋のロゴがプリントされている。
何をしにきたのか、静雄は計りかねた。
「は……?」
臨也は確かに、誕生日おめでとう、と言った。静雄の耳が正常に機能していたのなら、間違いない。
しかし、臨也と静雄は誕生日を祝うような間柄ではないはずだ。
分からない。この男が何を企んでいるのか。
じ、と静雄が推し量るように臨也を見つめれば、臨也はわざとらしく肩を竦めてみせた。
「やだなぁ、シズちゃん。自分の誕生日も忘れちゃったの?」
「……何で手前に祝われんだよ」
「嫌がらせ、かな」
そう言って臨也は笑う。
嫌がらせ?意味が分からない。
「大嫌いな俺に、誰よりも早く誕生日を祝われるなんて嫌だろう?」
タイミングを計って、わざわざケーキまで買って。そこまでしたのにこれが嫌がらせだと、臨也は言う。
静雄はため息を吐いた。
臨也のことは確かに嫌いだ。誰よりも、何よりも。
しかし、ほんの少し、本当に少しだけ嬉しかったのは確かだった。
自分でさえ、日付が変わるギリギリまで気付かなかった誕生日を、誰かが覚えていてくれるというのは悪い気はしない。たとえそれが、大嫌いな臨也だとしても。
「ケーキ、寄越せ」
「ん?ああ、はいどうぞ」
「妙なもん入れてねぇだろうな?」
「なるほど、それは失念してたな。来年は妙なものを入れることにするよ」
「……しね」
箱を受け取り、開ける。
真っ白な生クリームと、赤く瑞々しい苺。バースデープレートまで丁寧に飾り付けられている。
ちら、と臨也を見やると、にこりと笑っていた。気色悪い、と思わなかったのが静雄は自分でも不思議だった。
「ハッピーバースデー、シズちゃん」
楽しそうに言う臨也を殴る気にはなれない。もちろん、ケーキに罪はない。
静雄は包丁と皿とフォークを用意すべく立ち上がる。
「……食ってけよ」
「ん?」
「ケーキ。一人で食うには多すぎるだろうが」
静雄がそう言うと、臨也は少し、嬉しそうに笑った。
おわり
'11.01.28
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