あけましておめでとう
「あけましておめでとう」
正月早々、臨也はわざわざ静雄を訪ねた。
元日でなく二日を選んだのは、静雄が自宅に戻っているだろうと計算してのことだ。
その計算の甲斐あって、静雄は自宅にいた。
「あぁ?」
めでたくも何もねぇよ、と言わんばかりの顔で静雄は臨也を見た。いつものことだから気にしないけれど、今日は特別機嫌が悪いようだった。
もちろん、そんな静雄を察しておきながら、臨也はあえて気付かないふりをするのだけれど。
空気なんて読んでやらない。静雄相手に空気を読んでいたら、何も先には進まないのだから。
「一年の始まりだね、シズちゃん。いやぁ、実にめでたい。だからシズちゃんにお年玉を持って来たんだよ
」
「はぁ?」
不機嫌な顔から怪訝な顔に変わる。それを見てくすりと笑うと、臨也はポケットからぽち袋を出した。
お互いにもうお年玉をもらう年でないことくらい、重々承知だ。
今日の臨也は機嫌が良かった。ついうっかり、静雄にもちょっかい出したくなるくらいには。
「ほら、お年玉。さすがにもうもらってないでしょ?」
「この年で貰うわけねぇだろ」
「だからほら、お年玉。シズちゃんのことだから、どうせ財布の中身は淋しいんでしょ?可哀相だから施ししてあげるよ」
「いらねぇよ!」
突っぱねる静雄を見て、臨也は肩を竦めた。
「もらったっていいんじゃないの?」
「手前からだってのが信用できねぇ!」
「ああ、なるほど」
機嫌が悪いのかと思ったけれど、実は静雄は機嫌が良いのだろう。臨也はそう察した。
そうでなければ、こんなふうに会話が続くはずがない。
臨也限定で静雄はひどく言語能力が低下する。まともにコミュニケーションが取れるなんて、滅多にないことだ。
もちろん、原因は全て臨也にあるのだけれど。
「じゃあこれで我慢しておくよ」
「は?」
臨也はぐっと静雄の胸倉を引く。そしてそのまま唇を重ねた。
触れてすぐ離れると、臨也は唇をなめた。
「ごちそうさま、シズちゃん。あけましておめでとう」
にこりと笑ってそう言うと、固まったままの静雄を置き去りにして臨也は早々にその場を後にした。
今年は一年、静雄に関しては遠慮なんてしない。そんな意味も込めて、臨也は振り向いた。
「シズちゃん、好きだよ」
ぼっと顔を染める静雄が目に入ると、臨也はまた機嫌よさそうに笑った。
おわり
'11.01.02
'11.01.12加筆修正
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