手紙

昼休み。食事を終えてしまえば後はやることなどない。静雄は窓の外を眺めながらぼんやりしていた。
こうして何もしない時間が、実のところ、静雄は好きだった。そんな静雄の気持ちを知ってか知らずか、昼休みだけは、臨也は何もちょっかいを出してこない。
しかし、臨也でさえ邪魔をしないこの時間を遮るものはある。

「あ、静雄いたいた」

はい、と差し出された手紙を、静雄は受け取らずに無視した。そんな静雄を、新羅は困り顔で見つめる。

「受け取ってくれないと困るんだけど」
「いらねぇよ」

よくあることだ。所謂一つの、ラブレターというものである。
しかし、静雄は決して受け取ろうとはしない。いつものことだ。
人の想いを踏みにじる気はない。しかし、苦手なのだ。

「それにしても、今月で何度目?モテるね」
「知らねぇ。もう預かってくんなよ」
「君が受け取らないから、僕に回ってくるんじゃない。ほら、あっちみたいにうまくやればいいんじゃない?」

新羅が指を差した先には臨也がいた。

「本当、モテるよね」

新羅の言葉に、静雄はぼんやりとその場面を眺めた。おそらく、告白現場なのだろう。めずらしくもない。
何が良いのか分からないが、臨也はモテる。
確かに綺麗な顔をしているし、頭だって悪くない。けれども、中身があれだ。

「あ、振ったのかな」

隣で実況する新羅に、静雄は舌打ちをした。知りたくもない。
そんな静雄に気付いておきながら、新羅はにこりと笑った。

「臨也はもう、彼女作らないと思うよ」
「あ?」

いきなり何の話だ、と静雄が顔を向けると、新羅は困ったように微笑んでいた。
意味が分からない。
そもそも、臨也が彼女を作らないだの作るだの、静雄には関係がない。あってたまるか。

「まあ、前に周りにいた女の子たちも、恋人ではなかったみたいだけどね」

一体、新羅は何が言いたいのだろう。
臨也のことなんて、静雄は知りたくもない。知れば知るだけ腹立たしい。
新羅はまた、にこりと笑う。

「……新羅」
「何だい?」
「何が言いたいんだよ」

苛立つまま静雄が尋ねると、新羅はまた別の手紙を差し出した。普段もらう手紙と違い、素っ気ない手紙だ。
真っ白な封筒に、シズちゃんへ、と書かれていた。ただそれだけで、差出人が分かってしまった。
静雄は舌打ちをする。

「どうする?」

新羅の問いに、静雄は知るかとだけ言って、逃げるように教室を出ていった。


おわり


'11.01.17


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