“愛”

愛って何だよ。愛なんか知らない。
愛とは与え、そして受けるものだ。奪うものではない。
静雄は目の前の男を睨みつけた。
この男は愛を知っている。愛を持っている。
愛を恐れる静雄とは違い、何の躊躇いもなく愛せる。

「シズちゃんは愛を信じられる?俺は信じてる。愛は他人からしか与えられない。自己愛はあれど、それはそこから先には進まないんだ。ねえ、シズちゃん。信じてよ。俺の持ってる愛、全部君に見せるから」

この男は何を言っているんだろう。静雄には分からない。
散々殺し合いをしてきて、今更なぜ愛を語る必要があるのか。
そもそも、信じられない。臨也は静雄にとって、愛なんて語る相手ではない。

「手前の言う愛なんか信じられるか!何企んでやがる……」

信じられない。これまで幾度となく殺し合いをしてきた。
それなのに、臨也は何を考えているのだろう。静雄がいくら考えても分からないのかもしれない。
高校時代からこの男は変わっていない。それは静雄もなのかもしれないけれど。

「見えるものだけ信じてれば、楽だよね。でもそれってさ、見えないものを見ようとしていないだけなんじゃないの?シズちゃんは俺が嫌いだって言うけど、俺のこと全部知ってるわけじゃないだろう?だけど、見せなきゃ納得しないでしょ」

それは本当の言葉なのだろうか。欲しい言葉を与え、絶望に落とすのが臨也の手口ではないのだろうか。
静雄が愛を恐れているのは、壊してしまうと思っているからだ。大切にしたいのに、いつだって静雄自身が壊してしまう。
それが怖い。誰よりも、自分の持つこの力が憎いのだ。

「知るかよ……」

愛している。だから護りたい。壊したくない。
それなのに、静雄の力はそんな静雄の気持ちを裏切る。それが怖くて、人を愛することができずにいた。
だから、こうして平然と愛を語る臨也が、静雄は羨ましくも、妬ましくもある。

「シズちゃんは怖がりだからね」
「……黙れ」
「そんなに自分の力が怖いの?そうだよね。それは人間にはない。化け物の力だ。普通じゃ考えられない。でもね、シズちゃん。俺は君の、そういう人間じゃない部分も愛してる」

はっとして顔を上げた。穏やかに笑う臨也がそこにいて、静雄は驚いた。

「誰かを好きだと思うのは初めてなんだ。分かってよ、シズちゃん。俺も愛の伝え方なんて知らない」

ムカつく。腹が立つ。殴りたい。
でも、今臨也が発した言葉は、嘘が含まれているとは思えない。
だから嫌なのだ、この男は。

「だから手前は嫌いなんだよ。馬鹿野郎」
「本当に、シズちゃんは素直じゃないなぁ」

伸ばされた手を抵抗せずに受け入れる。抱き締められて、温もりが伝わる。
温かくて、何だか落ち着くのはなぜだろう。

「シズちゃん、好きだよ」

飾らない、ありのままの言葉。静雄は臨也の肩に顔を埋めた。

「……馬鹿だろ、手前」
「うん、そうだね」

馬鹿でもいいよ、と臨也が笑って言うものだから、静雄はそのまま体を預ける。
温かくて、安心する。それが腹立たしくもあったけれど。


おわり


'10.11.14


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