無限ループ

――どうして、俺は人を愛しているの?

頭の中でもう一人の自分が問う。臨也はそんな自分を鼻で笑った。
答なんて簡単だ。おもしろいから、と。

――どうして、俺はシズちゃんが嫌いなの?

また、頭の中でもう一人の自分が問う。臨也は答えられなかった。
平和島静雄。高校時代の同級生。池袋最強。自動喧嘩人形。化け物。シズちゃん。
忌々しい。思い通りにならない化け物。
臨也は静雄が嫌いだ。しかし、本当は、言葉と抱える想いは違う。
誰よりも強く意識していて、誰よりも知っていたい。
誰よりも近くて、誰よりも遠い。
臨也にとって静雄は、そんな相手だ。
与えるのも奪うのも、すべて自分であればいい。臨也はそう思って、自嘲するように笑った。
馬鹿馬鹿しい。まったくもって、実に馬鹿げている。

「まあ、でも……そろそろ、良い頃合いだよねぇ」

誰に言うのでもなく、臨也はそう呟くと椅子から立ち上がる。目指すは、池袋。
いつものコートを羽織りながら、臨也は小さく微笑んだ。


*****


今日も池袋は賑やかだ。静雄の姿を探し、臨也は辺りを見る。
情報屋である臨也には、その力を持てば静雄の行動なんてすぐに分かる。しかし、そうしない。
どうせ静雄は、臨也がどんなに隠れても、この町を歩いていれば見つけてしまうのだ。
それなのに見つからない。
いつもだったら静雄の方が臨也を見つけ、ゴミ箱やら自動販売機やらを投げ付けてくるというのに。
無性に腹立たしいのは何故だろう。思わず、臨也の表情が歪む。
しかし、前方から見覚えのある高校生3人組が歩いてくるのが見えると、臨也はすぐさま作られた笑みを浮かべた。

「やあ、今帰り?」
「臨也さん……どうも」

最初に挨拶を返してきたのは正臣だった。
正臣はまるで二人を庇うように一歩前に来る。分かりやすい。
臨也はそんな正臣を好評価していた。頭の良い子だ、と。
頭を下げる帝人と杏里にも笑い掛け、臨也は正臣を見る。
世間話も嫌いではないが、声を掛けたのは聞きたいことがあったからだ。

「シズちゃん見なかった?」

臨也の言葉がひどく意外だったらしく、正臣は一度目を丸くした。
それもそうだろう。臨也と静雄、二人の仲の悪さは池袋でも有名な話だ。一度こちら側へ踏み込んだ正臣ならば、知らないはずがない。
正臣は一度首を傾げ、口を開いた。

「……見てないっすけど」

何をするつもりなんだろう、と正臣の目が言っている。
臨也はそれに笑顔で返すと、ありがとう、と言って違う方へと足を向けた。


この町に静雄がいない。そんなはずはない、と臨也は静雄を探した。静雄のいない池袋の町なんて、臨也には考えられない。
しかし、見つからない。
だから静雄は腹立たしいのだ。いつだって思い通りにならない。
会いたくないときは喧嘩をふっかけてくるのに、会いたいときは見つかりやしない。
立ち止まり、臨也はため息を吐いた。
物事にはタイミングが大事だ。臨也にとってそれは今日であり、静雄にとっては今日ではなかったのだろう。
そもそも、間違っていたのかもしれない。今の関係を終わらせようだなんて。そう思うと虚しくなってくる。

「……帰ろ」

そう思うと臨也は早かった。くるりと踵を返し、また池袋駅へと向かう。
臨也の姿を見て何人かが振り向いたけれど、臨也はそのすべてを無視して歩いた。


おわり


'10.11.01


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