トリックオアトリート
10月最後の日、ハロウィン。
すっかり寒くなり始めても、町には大勢の人々が行き交う。
色とりどりのイルミネーションが町を彩り、どこか楽しげな雰囲気だ。
季節感に疎い静雄でも、町中がオレンジ色になり、何とかといったかぼちゃが飾られていれば、ハロウィンなのだと分かる。
「……ハロウィンか」
静雄には縁のないイベントだ。今も昔も、そしてこれからも、きっと静雄には無縁だろう。
そう思った矢先だった。
「トリックオアトリート」
耳に馴染んだ声が聞こえ、静雄は眉を顰めた。
振り向くと、口元を緩めて笑う臨也を目が合う。
こういうときの臨也は、ろくなことを考えていないに決まっている。
「何のつもりだ、手前……」
「何って、今日はハロウィンだろう?定番じゃないか」
「手前はいくつだ。ガキじゃねぇんだから」
静雄がため息を吐くと、臨也ははい、と手を出す。
一体なんだと言うのか。
臨也は気まぐれだ。いつだって、こうやって思い付いたまま静雄にぶつけてくる。
今見たいな軽いことから、命を奪うような目に合わされるときも気まぐれなのだ。
「ほら、シズちゃん。トリックオアトリート」
「持ってねぇよ」
「へえ……じゃあ、悪戯だね」
思わず背筋がぞくっとした。
臨也の言う悪戯は、どうせしょうもないことだろう。
静雄は臨也を睨みつけた。
「何考えてやがる……」
「そうだなぁ、とっても楽しいこと、かな?」
やめてくれ、と静雄は思う。
臨也はいつもひどい。こうやって気まぐれに静雄の前に現れては、静雄のことをかき乱すのだ。
つい、と臨也の指が静雄の頬をなぞる。
静雄がびくりと肩を揺らすと、臨也は楽しそうに笑った。
「ねえシズちゃん、甘いもの好きでしょ?」
「……だったらなんだよ?」
「うちにあるんだけど、食べにくる?」
罠だと、静雄は直感的に感じた。乗ってはいけない、と頭のどこかで言っている。
そう分かっているのに、いつも墓穴を掘ってしまうのは静雄の方だ。
いつだって乗ってしまう。
「……嘘だったら殺す」
「そうこなくっちゃ」
笑う臨也に手を引かれ、静雄は歩く。
繋いだ手は、暖かかった。
おわり
'10.10.31
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