一方通行
抱き締めて愛を囁いたら、静雄はどんな顔をするだろう。
臨也は遠くにバーテン服を見つけ、ふと考えた。
「……シズちゃん」
傷つけて、追い詰めて。そうして壊してしまいたいと強く願う。
それなのに、静雄はいつだって臨也の思うようにはならない。
傷を付けてもすぐに治る。追い詰めても抜け出してしまう。壊したいのに壊れない。
それが腹立たしくて、同時にひどく安心する。
「臨也」
「ドタチン、久し振りだね」
臨也は人が好きだ。人と関わることを好むし、思い通りに動かせると思っている。
彼らを内側から壊したとき、どうするのかがひどく興味をそそられる。
だから臨也は諍いを起こし、それを観察している。
「あまり街を騒がせるなよ」
「やだなぁ、ドタチン。街を騒がしてるのは俺じゃなくてシズちゃんでしょ?」
臨也と京平は、高校時代からの付き合いだ。
付き合い、と言っても、知り合いというくらいである。
臨也は、京平に対してごく普通に接してきた。
「まったく……」
「一人?めずらしいね。いつものメンバーは一緒じゃないんだ?」
「もう帰るところだ。お前こそ、一人か?」
「まあね」
含んだ笑みを見せれば、京平は呆れたような顔を見せる。
京平のことを、臨也はそれなりに評価していた。
京平は鋭い。行動も的確で、それでいて人望が厚く、慕われる。
静雄ほどではないにしても、臨也の思惑に気付くことのできる人物なんて、中学の頃からつきあいのある新羅か、京平くらいだろう。
「静雄に何する気なんだ?」
「別に、何も?」
「……臨也」
新羅は臨也が静雄に何かしようとしても、決して止めたりはしない。
それは新羅が冷たいとか、そういう問題ではなく、彼のスタンスなのだ。好きにやってよ、という。
しかし、京平は違う。彼は街の平穏を望む。
おそらく、これまで臨也がしてきたことを京平が知ったら、説教でもされてしまうだろう。
臨也の知る門田京平は、そういう男だ。
「ねえドタチン、俺はね、シズちゃんになら何だってするよ」
「は?」
京平が眉を顰める。臨也は笑う。
「シズちゃんはそれを全部許容しちゃうからね」
臨也が何をしても、静雄はすべて受け止め、そしてぶち壊す。許容している、と言っても過言ではないと臨也は思っている。
だからこそ、臨也は静雄に何でもする。
静雄は何をしても死なないと、そう確信でもあるかのように。
「許容量を超えたらどうするんだ?」
「そしたらね」
一度言葉を切り、臨也はにこりと笑みを浮かべる。
「今度こそ、愛してあげられる」
呆れたように京平がため息を吐くのと同時に、遠くにいたはずの静雄がこちらを睨んでいることに気付いた。
「いぃいいいいいざぁあああああやぁあああああ!」
「じゃあドタチン、またね!」
臨也がそう言って走り去ると、ものすごい速度で静雄がそれを追い掛ける。
「あいつら……いつまで続ける気なんだかな」
京平はまた、ため息を吐いた。
おわり
'10.10.23
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