情報収集で深まる愛

臨也はきっと、誰よりも静雄を知っている。
情報だけで得たものもあるのだが、それでも、おそらく静雄を知る人間では一番知っているだろう。
静雄は化け物じみた力を持つくせに、誰よりも人間らしい。
だからこそ、臨也は執着しているのかもしれない。

「いぃいいいいざぁああああやぁああああああっ!」

池袋を訪ねると面倒なことになると、臨也は重々承知している。
それでも足を運んでしまうのは、この街には臨也の愛する人間たちが居るからだ。
それから、たった一人の化け物が居る。臨也にとって、静雄だけは別枠の中にいた。

「……シズちゃん」

交差点。二人は正面から向かい合う。
臨也の手にはナイフが、静雄の手には消火栓の標識が握られている。
先日、臨也が適当に選んで動かした駒は、静雄にかすり傷一つ負わせることができなかったらしい。
臨也はため息を吐いた。

「何でシズちゃんはまだ息してるわけ?」

そう言ってにこりと笑う臨也の目に、怒りでただただ臨也を睨み付ける静雄が映る。

「本当に、シズちゃんって化け物だよねぇ」

臨也はまた笑う。作り物の顔で。
それを本能的に理解するのか、静雄は怒りよりも嫌悪感を露わにした。

「……うぜぇ」
「偶然だなぁ。俺もシズちゃんをうざったいと思ってるんだよ」

静かに起こる静雄なんて、滅多に見れない。臨也は内心、ほくそ笑んだ。
静雄が嫌いだ、苦手だ、と臨也は言うけれど、その実、静雄に対して興味深いと思うこともある。
臨也が頭を作って作り出した状況を、静雄は体一つで壊してしまう。
それが腹立たしくもあり、興味深くもあるのだ。

「シズちゃんはさ、何で思い通りになってくれないのかな」
「あ゙ぁ?」
「君って計算どおりにいかないよね」
「手前の計算どおりにいって堪るかよ」

吐き捨てるように静雄が言うと、臨也は笑みを浮かべた。
どうしようもないくらい、静雄はある意味寛容だ。
普通の人間であれば死んでしまうような目に何度も合わされていると言うのに、たったその一言で済むのだ。
思わず、臨也は感心してしまった。

「やっぱり、シズちゃんは予想を超えるよ。誰よりも進化が早い。シズちゃんはさ、絶対に人間じゃないよね」
「黙れ!今日こそぶっ殺してやる!」

笑う臨也の横を、標識がすり抜ける。
間合いを読み、足一歩分だけ避けたのだ。

「ここじゃギャラリーが多すぎるよ?まあ、別に俺はいいんだけどね」

臨也がそう言って笑うと、静雄は忌々しいと言わんばかりに舌打ちをした。
臨也はもう、堪らない気分だった。
臨也が指摘をするまで、静雄の目には臨也しか見えていなかった、ということなのだ。
静雄の意識はただただ臨也にだけ向いていた。
それは臨也自身も同じなのだが。

「手前が消えりゃあ、いいんだよっ!」

近くに駐輪されていた自転車を振り上げると、静雄はそのまま臨也に向かって投げ付ける。
さすがに臨也も大きく避けざるを得なかった。
臨也が一歩、後ろに飛ぶ。自転車が先程まで臨也の立っていた場所に叩き付けられた。

「俺はシズちゃんと違って普通の人間なんだからさ、そんなの当たったら怪我しちゃうじゃない」
「殺すつもりでやってんに決まってんだろうがよぉおおおおおお!」
「おお、怖っ」

くすりと笑って臨也はくるりと一回転する。

「そうやってまっすぐ向かってくるのは、シズちゃんのいいところだよねぇ」
「黙れ!このノミ蟲がっ!」

静雄の手が臨也の腕を掴む。ズキリ、と腕が痛みを訴える。
それでも、臨也は静雄に向かって笑ってみせた。

「手加減してるのかなぁ?」
「手前っ……!」
「安心しなよ、シズちゃん。俺はそう簡単に壊されてなんかやらないから」

掴まれたままの手に、臨也は気まぐれに触れてみる。
静雄の体温は、臨也よりも少し高かった。暖かい。
そんな臨也に驚いたのか、静雄は目を丸くして臨也を見つめる。
臨也の手はまだ、掴まれたままだ。

「暖かいね、シズちゃん」

臨也がそう言って微笑むと、静雄は慌てたように臨也の手を振り払った。
掴んでいたのは静雄だったはずなのに、まるで静雄の方が掴まれていたかのようだ。
ちらりと様子を窺えば、静雄は真っ赤な顔をしていた。

「今度殺すっ!」

そんな静雄を見て、臨也は笑う。

「しょうがないなぁ」

今日はもう帰るよ、と言うと、臨也はナイフをしまった。
本当の用は別にあったのだが、静雄のめずらしい顔を見れただけで、今日は満足だった。


おわり


'10.09.28


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