ほんきのせいちょう

※小学生臨也×大学院生静雄なパロディもの
これの続き


シズちゃん、と舌足らずに呼ぶあの声を聞かなくなってからどれくらい経つだろう。
公園で遊ぶ子供をぼんやり眺めながら、静雄は臨也を思い出していた。
高校を卒業した静雄は進学のために家を出た。それから臨也には会っていない。
引っ越すから、と静雄が言ったときの臨也の泣き出しそうな顔が頭に浮かぶ。
あれからもう六年経つ。臨也は来年、中学生となるはずだ。

「待たせて悪いな」

研究室の先輩であるトムに頭を下げると、静雄はベンチから立つ。

「難しい顔してたけど、悩みでもあるのか?」
「ちょっと前のことを思い出してただけっす」
「ああ、そういや近所のチビに懐かれてたとか言ってたな」

ピ、とトムは砂場で遊ぶ園児を指差して言う。静雄は頷いた。
懐かれていた、というよりも口説かれていたのだが、トムにはそのことを話してはいない。
あれきり会っていないのだが、後にも先にも、あれほど情熱的な愛を囁かれたことはない。

「来年中学に上がるんで顔でも見に行こうかと」
「そりゃお祝いしてやらないとな」

臨也は一体どう成長したのか、静雄は知らない。
ただ、あの目だけは変わっていないだろうと思う。いつだって、静雄をまっすぐ見つめたあの目は。

「どんなガキに成長してるのか知らねぇんすけどね」
「中学生ってーと、何欲しがるんだろうな」
「あー……何がいいんすかね」

そう考えて、静雄はガシガシと頭をかく。
臨也が何を欲しがるのか、静雄にはさっぱり見当がつかない。何しろ、会わなくなって随分経つのだ。
前のまま成長していたとして、臨也だったならちゅうだの何だのと言うのだろうけど。

「お祝いならシズちゃんがいいな」
「は?」
「ていうか、シズちゃんをちょうだい?」

静雄をシズちゃんと呼ぶのは、ただ一人だけだ。

「臨也、か?」
「久しぶり、シズちゃん。会いたかったよ?」

あんなに小さかった臨也は、背が伸びてすっかり大きくなっていた。
まだまだ静雄の方が背は高いが、臨也はまだこれからも伸びるだろう。
黒で統一した服装も、小さな頃に見ていたものとまったく違う。

「……でかくなったな」
「まだシズちゃんより小さいけどね。そうそう、来年シズちゃんのとこの附属中学に入るから」
「はぁ?」
「ついでにシズちゃんちに厄介になろうと思って」

そう言って、臨也は笑う。
それなら中学を受けるときにでも話してくれたらいいものを。静雄はそう思ってため息を吐いた。
臨也の笑顔は大人びている。それでも、目だけは変わらない。

「またよろしくね、シズちゃん」

だから静雄は直感的に思った。臨也の気持ちはまだ、変わっていないのだと。
あの頃の感情がまだ、臨也の中には残っているのだ。
静雄はどうにも複雑な気分だった。

「手前、まだ――」
「シズちゃんが好きだ、愛してる。俺の気持ちはずっと変わらないよ」

隣でトムが驚いているのに気付きながら、静雄は詰まった息をゆっくり吐く。
どうかしている。嬉しいだなんて。

「手は抜かない。誰にも渡さない。シズちゃんは俺のだからね」
「……マセガキ」

トムがいることを分かっていて言っているのだろう。まったく、末恐ろしい子供だ。
静雄はため息を吐きながらも、どこか喜んでいる自分がいることに気付いた。


おわり


'10.09.20


[←prev] [next→]

[back]

[top]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -