始まりの一歩
※子臨也と子静雄。捏造。
体は小さいけれど、内に秘めた力は膨大だ。
静雄自身にも制御しきれないその力は、いつだって静雄自身に降りかかる。
体を痛めて通院しなければならないことなんて、数え切れない。
「一人で大丈夫だよ、幽」
「……うん」
今度は右手首。迷惑駐輪をしていた男に自転車を投げつけたとき、ポッキリと折ってしまった。
傍らでは幽が心配そうにしている。そんなとき、静雄は自分の力を呪いたくなる。
家族は至って普通だ。妙な怪力はない。
人間離れしたこんな静雄でも、両親は幽との差を付けたりしないし、幽だって静雄を避けたりしない。
「先帰ってろ。な?」
「分かった」
こくりと頷く幽の頭を撫でると、静雄は病院への道を進む。
辛くないわけではない。悲しくないわけではない。
ただ、どうして自分はこうなのかと思ったとき、その感情はすべて静雄自身に向かう。
愛されている。家族からは確かに。
「ねえ、そこの君」
「あ?」
不意に声を掛けられ、静雄が顔を上げる。目の前にいたのは、黒いコートに黒いズボンという、黒ずくめな少年だった。
艶のある黒髪に赤みのかかった目。初めて見る顔だ。
覚えのない少年に、静雄は首を傾げる。
「ふーん……君が平和島静雄君?」
「そうだけど、お前は?」
「名乗るほどの者じゃないよ」
にっこり、少年は笑う。
胡散臭い。静雄は直感的にそう思った。
「何なんだよ、お前」
「噂を聞いて君に会いに来たんだよ。見た目は可愛いのに、怪力なんだってね」
「はぁ?」
「ちょっと気に入っちゃったなぁ」
関わるとろくなことにならない気がした。
静雄がジロリと睨みつけると、少年はまた笑った。
「また会いに来るよ」
言うだけ言うと、少年は踵を返して歩き出す。
その背中を見送りながら、静雄はどうにも言葉にできない気持ちがわく。
しかし、今日はこれから病院に行かなければならない。静雄は少年を追うことなく、目的の場所へと向かった。
*****
それから数年が経ち、静雄は高校生となった。
相変わらずの怪力は健在で、体も合わせて強くなり、今では病院の世話になることもない。
「君が平和島静雄君?」
振り向くと、黒髪の青年が立っていた。
赤みががったその目に、静雄は覚えがあった。
「へえ……綺麗になったね」
「手前、あのときの……」
「覚えててくれたんだ?それは光栄だなぁ」
青年の笑みを見て、静雄は眉を顰めた。
理由は分からない。ただ、信用ならないと直感的にそう感じた。
「俺の名前は折原臨也。覚えといてよ」
「あ゙ぁ?」
「気に入ったものは手に入れる主義なんだ」
にこりと笑う臨也を、静雄はただ睨みつける。
理由なんて考えても分からない。ただ、気に入らないと、そう思った。
おわり
'10.09.16
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