無自覚なれど

臨也は静雄のことを考えるたび、憎たらしくて、実に腹立たしい気分になる。
どうしてそう思うようになったのか、きっかけはさほど難しいものではなかった。
思い通りにならない。
組み立てた策を呆気なく打ち崩される。
他のみんなが臨也の本性に気付かないまま騙されたとしても、静雄だけは騙せない。
単細胞で暴力的であるくせに、妙なところで鋭いのだ。
そうして抹殺しようと試みて早7年。
未だ静雄は息をしている。
仕事用のパソコンをいじりながら、臨也はため息を吐いた。
手元に入ったのは、池袋最強の自動喧嘩人形が新宿に来ている、といった情報だ。
つまり、臨也のところへ来たのだろう。

「まったく、今回は何なんだろうね」

殴るため、もしくは殺すために来ているに違いない。
それ以外の理由で静雄が新宿に来るはずがないのだから。
臨也が苛立つ気持ちを隠さないまま言うと、波江が臨也をちらりと見る。

「平和島静雄が下に来てるわよ」
「めんどくさいなぁ……今日はシズちゃんの相手する気分じゃないんだけど」
「近隣迷惑よ。貴方が出ないと帰らないんじゃないかしら?」

波江は相変わらず、無表情だ。
面白がっているようでも、何でもない。波江の言うことは正論だ。
まったくもって、実に面倒なことになった。
静雄の相手は池袋だけで十分だと、臨也は思っている。
池袋では静雄は有名で、騒ぎをちょっと起こしたくらいで通報したりされることはない。
しかし、新宿は別だ。
静雄のことを知らない住民の方が多い。

「早く行かないと通報されるんじゃないかしら」
「警察に目をつけられるのは得策じゃないね。本当に困ったものだね」
「貴方が余計なちょっかいを出すからじゃないの?」

はぁ、と呆れたようにため息を吐いて波江は言う。目が冷たい。
そんなことに構うことなく、臨也はにこりと微笑み掛けた。

「だってさ、つまらないんだよね」

臨也がちょっかいを出さない限り、静雄は新宿には来ない。
そもそも静雄はキレているとき以外は割りと物静かだ。
ちょっとしたことで短気を起こすけれど、普段の静雄はぱっと見がおとなしそうな青年に見える。

「シズちゃんのことは大っ嫌いだけど、アレが別のものを見てる方がもっと不愉快だね」
「は?」

波江の無表情が崩れる。
臨也はそんな波江を見ないまま、椅子から立ち上がった。
面倒ではあるけれど、臨也が顔を出さないと収拾がつきそうにもない。

「周りが見えなくなって追い掛けてくる姿って結構面白いんだよ。そういうとき、ちょっとスッキリするかな」
「貴方、それって……」

波江が何かを言いたそうにしていたけれど、臨也は聞かずに部屋を出た。
自分から仕向けたこととはいえ、実に面倒だ。
それでも、静雄がわざわざここまで来たことに、臨也はほくそ笑んだ。
それが一種の独占欲であることに、臨也はまだ、気付いていない。


おわり


'10.09.05


[←prev] [next→]

[back]

[top]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -