創作memo | ナノ

 メリークリスマス

 聖者が生まれた日はお祝いしようとする動きはいつから始まったのか。この世界には神族はいても彼らの上に立つ本当の神様というのは誰も知らない。もしかしたら存在しなくて天地創造は大きな力によって行われていたのかと唱える学者もいる。
ともあれ、今年も「天地の休暇」はやってくる。地上界天上界に住まうすべての種族が諍いを中断し、世界が誕生したこの日を仲間や家族と共に三日間過ごす。王族は各地の貴族らを集めては歓迎の夜会を開く。グレイシス家現当主のアナギ・ザン・グレイシスも陛下の頼みとあらば断わることのできないようで、昨日から王城に出向いている。本来ならば家族と共に過ごしたかったのだと嘆いており、出発直前までパーティーの下準備をしていた。料理も後は料理長たちが仕上げるだけなので、他の家人たちは会場である応接室を飾り付けていた。息子のセナローズも一緒に住んでいるイルファーナと一緒に街へ買い出しに行き、帰りには双子を迎えに行っていた。元より両親のいない彼女たちに招待状を送っていたので双子は楽しみで仕方なかったのである。

「あ、それ俺が狙っていたケーキ!」
「へへーん! こういうのは先に取ったもん勝ちだからな!」
「ふつうケーキは年上優先だろ。大きいの選ばせろよ!」
「イル、年齢を基準にしたら僕が真っ先に一番大きいやつを選ぶからね? しかもイルはもう大人なのに」
「歳は成人していても心はまだ子供でいたいんだよ!」
「もうイルってば……少しは遠慮したらいいじゃない」
「甘いなトア、ケーキみたいに甘く見ちゃいけないんだぜ。これは争奪戦なんだ!」
「かっこよく決めても……」

 こんな具合にパーティーは日が暮れる頃、当主のいない状態で始まったが、最初から盛り上がっていた。料理長たちが仕上げた父親特製の料理に舌包んだり、カードで遊んだり、イルファーナとイルの悪戯でセナローズとトアが困惑したりと彼ららしい雰囲気を漂わせていた。
料理も大方減り、全員のプレゼント交換も済ませた時には時間は深夜近くを廻っていた。夜も遅いため、双子は本日屋敷に泊まることになり、ひとまずはお開きとなった。



 夜の帳が下りる頃。トアは姉と共に使っている客室を抜け出し、三階にあるイルファーナの部屋を訪れていた。ノックと共に入ると部屋の中央には蝋燭を片手にイルファーナがただずんでいた。

「きたか」
「見せたいものがあるって、さっきのパーティーの最中に贈られてきたので」

 ケーキ争奪戦の中、トアは呆れていると耳元で人の声とは異なるモノが響き渡った。魔力ある人々がよく使う魔法伝達であり、差出人がイルファーナと分かったのはその内容からだ。
 曰く、後でイルファーナの部屋に暖かい恰好で来てくれ。見せたいものがある。
 あまりに個人的な内容だったため、トアは姉にもセナローズにも教えることなく―というより教えたら絶対に様子を窺いに来るだろうし、からかいの材料になりかねないからだ―云われた通りに外套を纏ってイルファーナの部屋に来たのである。
 室内は月明かりでも薄暗く、蝋燭の灯りが無ければ相手の表情を窺うことが出来ない。イルファーナもタートルネックの上に黒の外套を纏って余所行きの服装をしている。

「あの、見せたいものって……?」
「口で説明するより、まずは移動しないとな」
「移動? どこに……って、わ!」

 どこに移動するのか聞こうとしたトアだったが、右手を掴まれてはイルファーナの傍に抱き寄せられ、一瞬で赤面してしまう。何が何だか分からない状態に更に既に用意されていたのか床に描かれた魔法陣が輝きだす。滑らかな光を醸し出す魔法陣は移動魔法の一種だ。そのまま光は二人を包み、収まる頃には部屋には誰もいなくなっていた。



 突如光りだした魔法陣に怖くなって思わず塞いでしまった瞼をトアが次に開いたのは、「もういいぞ」とイルファーナが声をかけてくれた時だった。恐る恐る目を開けるとそこは何本も緑の木があった。木と言っては語弊かもしれない。木と表現するにはあまりにこげ茶色が無さすぎる上に葉も少なく幹の部分には横に筋が入っていた。
 見たことのない景色だ。この国にこのような緑の森があったのだろうか。傍にいる少年に問うと彼は「ここは竜刃族の里だ」と答えてくれた。

「竜刃族?」
「東方に住んでいる種族のことだ。竜の化身であり、実際に種族の誰もが本性の竜に戻ることが出来る。生真面目すぎて戦いが好きなのに戦となると保守的になるのが変だけどな」

 ここはキリセル国ではなく、その竜刃族が守る竹林だという。しかしどうして竜刃族の里に来たのだろうか。せっかく答えてくれたのにまた新たな疑問を呼んだ。
 ますます訳が分からなくて困惑するトアを余所にイルファーナは外套から何やら球体を取り出す。それを見てろよと言うように上に放り投げると球体は中で白く輝き、四方八方に散開した。眩い光を出しながら堕ちてゆくその光はまるで流れ星のようだった。地面に近づくにつれて光は速度を落とし、今度は雪と間違えてしまうほどになる。

「わぁ……!!」

 緑色に白い光が合わさり、それだけでも綺麗だとトアは感嘆と共に見惚れた。

「本当は俺のお気に入りの場所で本物の流れ星を見せてやりたがったが、生憎その場所は悪天候でな。竜刃族に知り合いがいるからここを貸してもらえるように頼んだんだ」

 許可を得たイルファーナは、この日のためにパートナーや当主に内緒でパーティーとは別に事を進めていたらしい。先ほど投げられたものも彼が幼い頃に作ったものを作り直したのだと教えてくれた。

「私のために、ですか?」
「なんだかんだ言って、俺はトアに何もしてやれてないからな。これが、俺がお前に贈るクリスマスプレゼントだ」

 そういうとイルファーナは照れくさそうに笑った。トアはわざわざ自分のために用意してくれるとは思っていなかったので驚きもあり、感謝の気持ちで一杯だった。礼を述べたいのに何故か恥ずかしくて再び頬が熱くなるのを感じる。それでも、トアは思い切り笑顔になるよう努力した。

「……ありがとう、ございます!」

 礼を言う恋人の笑顔に、イルファーナは優しく微笑む。

「お前のその笑顔が、俺にとってのプレゼントだな」




 夜も更ける頃。
 竜刃の竹林に注ぐ月光が恋人になったばかりの二人を照らしていた。


【…fin】
≫お借り
・猫凪ちゃん宅のイルトア姉妹

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2014/12/26 (00:39)


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