ナマエの爆弾発言のせいで今だ眠れない。そもそも何で俺はこんなにドキドキしてるんだ、別に恋愛が初めてって訳じゃないだろう。…いや、そういえば俺から好きになるのは初めてかも………って、いやいやいや。だから俺は好きじゃないって! 結構上質なベッドに横たわって悶々すること2時間。時刻は既に午前2時。そろそろ本格的に寝に入ろうと思った刹那、ナマエに褒められた自慢の携帯が鳴り出した。これが鳴るのは殆どが仕事の用事だ。実のところ昨日も鳴っていたがついつい無視してしまったのだ。流石に2回も無視しては今後が怖いので、俺は渋々通話ボタンを押した。 「…もしもし」 『シャルか。仕事だ』 案の定、電話の相手は団長だった。予想通りだったとはいえやはり憂鬱だ。今はそれどころじゃないのに。話によると明日の夜アジト集合とのこと。あ、いや、もう今日か。 適当なところで電話を切り、枕元に置き直す。…そう、俺とナマエとでは住む世界が違うのだ。今日で会うのは最後かもしれない。正直、淋しいだなんて、俺は相当なところまできているようだ。俺はナマエが好き。吹っ切れてみると案外、さっさと寝付くことができた。 「…それでね、宇宙人も恋とかするらしいわ。姿形住む場所が違うだけで、根本は地球人と変わらないのよ」 「へえ、そうなんだ」 ナマエの態度は本当に変わらない。あんな思わせぶりな台詞を言っておいてそれはないだろうとか悪態づいてみる。でもまあ電波だから仕方ないのかもしれないけど、俺はもうそのつもりなのだ。自分の気持ちを偽るのは俺には似合わない。彼女を見ているとドキドキするし、一緒にいると楽しいと感じる。ナマエがどう思ってるか知らないけど、俺はもう好きになってしまったのだ。だから構うもんか。 俺は彼女に外に出ようと誘った。ナマエは何も疑うこともなくいいわと言う。ホント、無防備なのか天然なのか……いや、電波なのか。移動中も彼女の電波な話は止まらない。相変わらず意味がわからないけど、やっぱり楽しかった。 着いた場所は昨日の公園。時間的に子連れの親がちらほらいたが、幸運なことに3つのうち1つのベンチが空いていた。 「…そういえば、いつもここで宇宙人と交信してるの?」 「いいえ、違うわ。多いのはうちのベランダ。まあ気分によってばらばらね」 …それなら昨日、家に帰らずにここにいたのは、俺に見付けやすくするため? そんな自惚れたことを聞く勇気はまだなく、俺はそうなんだ、と相槌をうった。 「……俺、今日の夜、この街を出るよ」 3時半になり交信を始めた彼女に気を遣って黙っていたが、10分くらしいて俺は口を開いた。今日から暫く会えないのに、いつもと同じように交信するナマエに正直イライラしていた。格好悪いことに、俺は彼女の思考を独占する宇宙人に嫉妬していたのだ。 ナマエはつむっていた目を見開きこちらに向く。相当驚いた顔で、そうなの?と言った。彼女の意志がこちらに向いたことと、そこまで表情をあらわにするナマエに、俺の独占欲が満たされるのがわかる。俺はこんなに小さい男だったのかと落胆することもない。これは、好きな相手に対しての正常な感情だ。 ナマエは少し考えるふりをして頭を下げ、間もなくこちらに向いて「なら今日の交信はお休みするわ」と言った。 「…え、いいの?」 「ええ、だって今日で最後なんでしょう?」 「あ、あーまあ…。というか仕事で出るだけで、暫くしたら戻って来ると思う」 「でも暫く会えないんでしょ?」 彼女はふわりと笑って言う。ナマエは俺と会えないことに、どう感じているのだろう。俺は寂しいのに、彼女は寂しいくないなんて、狡い。俺がいない間も俺のことを考えてほしい、なんて。俺はどうかしてしまった。 「好きだよ」 「何言ってるの、知ってるわよ」 「ナマエは?」 「私も好きよ」 「違う。ナマエの好きは違うんだ」 「違わないわ」 「違う。本当の好きは、胸がドキドキして、苦しくなる」 ナマエはそうはならないだろう? そう言うと彼女は再び俯いてしまった。困らせたな、と思ったけど後悔はしていない。間もなく彼女は顔を上げ、申し訳なさそうに口を開いた。 「…確かに、そうはならないわ。でも、私はシャルと一緒にいてとても楽しい。これは好きじゃないの?」 その言葉を聞いて落胆する。でも俺は今はそれでいいと言った。いい訳無いけど、ナマエの笑顔が見れたからそれでもいいと、漠然にそう思う。 「…だからさ、俺がいない間他の人に話しないで」 「えー、無理よ」 「無理じゃない」 「無、理!だって私常に受信して発信してなきゃ駄目だもの」 「じゃあ電話」 「うーん、それも駄目。電話じゃ相手の電波を受信出来ないわ」 あー、もう! 思ったより頑固な彼女の肩を掴みこちらに向かせる。ナマエは突然のことにびっくりして何か言おうとしていたが、俺は構わずその口を自分のそれで塞いだ。そんなに長くはしていない。ただ奥様方は今頃、子供に目隠しをしているんだろうなあなんて考えられるほど、俺の頭は冷静だった。 顔を離してわかった?と聞くと、ナマエは真っ赤な顔をして、静かに頷いた。 |