今日は俺が先に着き、パソコンは開かず携帯を弄って待つこと5分。ナマエは来て迷わず俺のところへ向かってきた。そんな彼女を見て柄にもなくわくわくしている自分がいる。

「……カフェオレ頼む?」

「ええ、そうね。宜しく頼むわ」

俺がコーヒーとカフェオレを頼んでいる間、ナマエはじっと机に置かれた携帯を見ていた。どうしたのと問うと、それ触ってもいいかと聞かれ、俺は少し渋る。
俺のオリジナル携帯は、念能力を最大限に発揮するために必要不可欠な、命の次に大切なもの。普段なら一般人には疎か、仲間にも極力触らせないものだ。だから知り合って間もない彼女に触らせるなんて言語道断、といつもなら思う筈なのに、何故か俺はいいよと言った。何故かはわからない。ただ彼女なら、ナマエならいいと、漠然にそう思った。
携帯を受け取った彼女は、壊れ物を扱うかのようにそっと眺め、素敵、と呟く。それはお世辞でもなんでもない、心からの賛美に思えて、俺は素直に嬉しかった。

「…この携帯からは不思議な力が感ぜられるわ」

「………」

「凄く、大切にしてるのね」

「……ありがとう」

そんなにはっきりと褒められたことは初めてで、顔に熱が集まるのを感じた。こんなところ、団員に見られでもしたらまず死ねる。この街に彼等がいる筈もないのに、俺は内心焦ってついつい口を滑らせてしまった。

「…凄いね、ナマエの想像力。当たってるよ」

それを聞いた途端彼女は驚いたように目を見開いたあと、顔を真っ赤にして眉をひそめた。しまった、と思い口を開こうとするも時既に遅し。ナマエは机を思い切り叩き俺の前で初めて怒りをあらわにした。

「……皆同じことを言うわ。妄想だの想像だの…!それでもあなたは私の言うことを否定せずに聞いてくれてた。嬉しかった。…でも、やっぱりシャルも皆と同じだったのね……!信じてたのに!」

ナマエはバックも持たずに店を飛び出す。コーヒーを運びに来た店員も目を丸くして走り去る彼女を見ていた。
対する俺はというと暫くその場を動けずにいて、頭の中は珍しく後悔の念で溢れ返っていた。いつもなら見た目麗しい女に何を言われようが怒鳴られようが、興味もなかったし邪魔なら殺しもした。だが今は何故か、最後に見たナマエの涙が頭から離れない。
店員の控え目な、お待たせしましたという声にハッとする。すぐさま財布からお札を取り出し、お釣りはいらないからと言って俺も店を飛び出した。自然とナマエのバックを手に取り、無意識に彼女の影を追って。どうしてかはわからない。頭より先に、身体が動くのだ。

余り時間は掛からなかったと思う。10分、いや、5分か。ナマエは街にある唯一の公園のベンチに腰掛けていた。後ろから気配を消して声をかけると、彼女は肩を揺らしてこちらに向く。その目は真っ赤になっており何ともやるせなくなった。ナマエは俺を見た途端、先程のように眉をひそめて再び前を向いてしまう。俺は黙って彼女の隣に腰掛け、ごめん、と言った。前を向いたままなのは、彼女がどんな顔をするのか怖かったからだと思う。
暫く無言が続き、間もなくしてナマエがいいよ、と言った。そこで初めて彼女の方に向き直る。ナマエはこちらに顔を向けて薄く笑っており、俺は心の底から安堵した。

「……ほんとにごめん」

不安げに眉を下げて謝る俺は本当に珍しい。店に置いてかれたバックを彼女に渡すとありがとうと言われ、心の底から歓喜が溢れてくる俺は、一体どうしたというのだ。

「…いいえ、こちらこそ怒鳴ったりしてごめんなさい。でももういいの。宇宙人と交信してたら落ち着いてきたわ」

「宇宙人はなんて?」

「…シャルは私のことが好きだから、絶対追い掛けに来る。来て謝ってくれたら許してあげよう、って」

「………………え?」

…彼女は今、なんて?俺がナマエをすき?何故そうなった?いつ?なんで?どうして?
頭の中がぐちゃぐちゃに混乱している俺に対して、彼女は柔らかく笑った後目をつむって空を仰いだ。その姿が本当に宇宙と交信している様に見えて、思わず見とれてしまう。…いや、彼女曰く、実際にしているのだ。

「………ナマエはそれ、信じてるの?」

「ええ、勿論。宇宙人は嘘はつかないし、何でも知ってるのよ」

交信中に話し掛けてよいものか迷ったが、案外簡単に返事は返ってきた。しかも俺がナマエを好きだということを信じている。だがそれにしては反応がいつもと変わらない。恋の上級者か、それとも恋愛に疎いだけなのか。恐らく彼女の性格からして前者はないだろう。というかないと信じたい。それかもしかしたら、ナマエは"好き"という言葉の意味を履き違えているのかも…。

「私も好きよ、シャルのこと」

ふわりと笑って言う彼女を見て、後者である確率が上がった。しかしそれと同時に顔に集まる熱。何を喜んでるんだ何を期待してるんだ。ナマエの好きは違うんだって!そもそも俺がこんな電波な年下の女の子を好き、だなんて、絶対可笑しい!
頭がショート寸前な俺をおいてナマエは満足そうに立ち上がり、また明日ね、と言う。俺はほぼ無意識にじゃあねと返し、公園をあとにする彼女を見えなくなるまで見送った。
一人公園に取り残された俺は、ナマエの言った『好き』が、ずっと頭の中でリピートされ続けていた。

mae tug

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