「ねえねえ、イケメンのお兄さん。宇宙人っていると思う?」

昼下がりの午後。今日は珍しく何もない日ということで、自分が一番気に入っている住居がある、この街のオープンカフェでのんびりしていた時だった。ノートパソコンを机に広げてこの店自慢の煎れたてコーヒーを啜りながら街の様子を眺め、時折視線を外してパソコンのディスプレイに目を落とす。なんて優雅なんだろう、我ながらこれは絵になるのではないだろうか。
そんな感じに自画自賛していた最中、意味のわからないことを言いながら、俺に断りもなく勝手に相席についた女が現れた。見た感じ18、9くらいだろうか。綺麗な栗色の髪と、優しい緑色の瞳が印象的だった。ぼう、と彼女を見ていると、彼女はねえ聞いてるの?と口を尖らせる。上品な子だと思った。

「…ん、ああ、なんだっけ」

「宇宙人の有無について」

「…君はどう思うの?」

そう問い返すと彼女はうーん、と唸る。どういう経路でそんな思考に至ったのかは謎だが、でもまあ格別気になる訳ではないので、とりあえず話を聞いてから適当にあしらうつもりでいた。彼女がただの、上品な女の子であったならば。

「……私はいると思うな。宇宙人っていうかUMAっていうか。だって今朝夢で見たもの!宇宙人が私にコンタクトを取ってきてね、その内容が地球を侵略したいって要求だったの!その時私は全力で彼等を説得したわ。けど、宇宙人に侵略させられるってどんな感じなのかしらってふと思って、目が覚めてからやっぱりやめさせるんじゃなかったって後悔したわ。………で、あなたはどんな感じだと思う?宇宙人に侵略されるのって」

……何なんだ、この子は。
第一印象は上品で大人しい子。だがいざ話を聞いてみると、そんなものとは随分掛け離れた女の子だった。俗に言う電波系というものだろう。初めは宇宙人の有無についての質問だった筈なのに、いつの間にか侵略の話になっている。

「…うん、その質問に答える前に一ついいかな」

「ええ、何?」

「どうして俺にそんなこと聞くの?」

この店には時間帯的に結構人がいる。しかも殆どは俺のように一人客だ。その中で俺はパソコンを広げ、見る人によっては仕事をしている風にも見えるだろう。だが彼女は向こうで暇そうに雑誌を読んでいる女性ではなく、俺のところへ来た。きっと何か理由があるのではないか。そう思って聞いてみたが、彼女のなんとなく、と言う回答に思わずずっこけた。

「…え、なんとなく?俺仕事してる風に見えない?」

「え?仕事してたの?」

「してないけど」

「ならいいじゃない」

ふわりと笑う彼女。本来ならなるべく一般人とは関わりを持つことを好まない俺だけど、なんとなく、彼女なら別にいいかと思った。いつの間に頼んだのか、店員がカフェオレを彼女の前に置く。女はぱあ、と目を輝かせ、それをまだ熱いうちに口づけた。猫舌だと思っていたから意外だ。

「……今私のこと猫舌だと思ったって考えてたでしょ」

「えっ」

「ふふ、やっぱり。よく言われるもの」

それを聞いて安心する。まさか本当に心を読まれたかと思って焦った。電波系ならそれをも可能にしてしまいそうで怖い。胸を撫で下ろしながら俺もコーヒーに口を付ける。煎れたてコーヒーも、20分も経ってしまえばぬるくなっていて、まずかった。

「…で、どう思う?」

「………へ?」

「もー、さっきからあなた、私の質問に聞き返してばっかりよ。宇宙人に侵略されることについて!」

頬を膨らませて言う彼女にごめんごめんと謝りながら、思考する。そもそも、宇宙人に侵略されるなんて聞かれたこともなければ考えたこともなかった。これが電波ワールドか。

「うーん…イマイチ想像出来ないけど……。それはそれで面白いんじゃないかな」

そう言うと、彼女はカフェオレが来た時のように目を輝かせ、そうよね!と言って俺の手を握る。俺は予想外の反応に掴まれた両手が振りほどけず、彼女は固まる俺に構わずに体を机に乗り出した。え、顔近い。

「私もそう思うの!絶対楽しいわよね!わー、やっぱり、私の思った通り!あなたとは気が合うと見た時から思ってたのよ」

俺が何か言おうと口を開いたと同時に、彼女はもうこんな時間、と言って財布の中から小銭を取り出し、机に置いて席を立つ。俺はそんな彼女の背中に声をかけた。

「俺はシャルナーク。君は?」

彼女はふわりと振り返り、ナマエ、とだけ言って店から出て行った。………ナマエ、か。
因みに、ナマエが置いて行った小銭がカフェオレ代だけにしては多いことに気が付くのは、それから10分後のこと。

tug

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