ワンダフルデイズ | ナノ



自己紹介が一通り終わったクラスでは、5分ほど先生の話を聞いてホームルームを終えた。その後は委員会の人と一部の部活の人で入学式の準備をするらしく、他の生徒は下校するらしい。そういえばそんなこと言ってたっけと思いながら、屋上に行けないことに肩を落とした。太郎も言われるまで忘れていたらしく、苦い顔をしながら体育館へと走って行った。因みに彼は美化委員で、理由を聞くと憧れの先輩がいるとかなんとか。くそう、山田太郎のくせに色気づきやがって。
礼を終えるとさっさと教室を出る。こんな素っ気ないから友達もまともに出来ないのかもしれない。まあ今日は家の整理もあるからさっさと帰りたいのも事実なのだが。
慣れない通学路を、これまた見慣れない風景を眺めながら歩く。…あ、こんなところに美味しそうなパン屋さん。昼ご飯はここで買おうかなあ。本屋さんもあるや。近くに商店街もあるし、バイトもすぐ見付かるだろう。なかなか上機嫌で町を歩くこと10分。因みにこの距離だと自転車通学はできない。まあ別に構わないけど。
不意に、叫び声が聞こえた。女のものじゃない、野太い男の声。どうやらこの近くの空き地で喧嘩でもしているらしい。いやだなあ、と思いながらその前を通る。ここを通らない道だとかなりの遠回りになってしまうから仕方がない。
ふと、好奇心で少しそちらに向く。するとなんと最近見覚えのある顔があり、つい二度見してしまった。いや真面目にびっくり。私と同じくらいの身長の真っ黒い彼が、180センチ以上の巨体な男子生徒数十人を、たった一人で蹴散らしていたのだ。相手は制服からして他校生だろうか。それにしても…黒い人が強すぎるのだろう、恐モテの彼等が遊ばれている。なんだろう、もしかして黒い彼は結構有名な人だったり…?

「………あ」

本当に、真面目に、もう一度言うけど関わる気はなかった。この一方的な喧嘩を見て、やっぱり屋上に行くのはやめようと思ったくらいに。
回りの背景が凄くスローモーションに見える。斜め下に見える、やっぱり目付きの悪い彼の顔が驚いたように変化した。こんな顔もするんだなあ、と思いながら、左足に当たる男の顔を蹴飛ばす。男はズザザザと地を滑りながら壁にぶつかり、意識を飛ばした。スチャ、と上手に着地して見せれば黒い人とぶつかる視線。はは、と苦笑いすれば彼はニヤ、と目を細めた。狐みたいとか呑気に思っていると、彼は私の顔の真横に向かって蹴りを繰り出す。後ろからはズンと人が倒れる音。ああ、私は彼に助けられたのかと、バクバク煩い心臓を押さえながら思考しているうちに、周りは既に倒れる人の山だった。

「すご……あ、ありがとうござ」

「何で入て来たか」

私がお礼を言い終える前に、少し不機嫌な雰囲気で黒い人が言った。…そりゃあ、同じ学校生徒が後ろからバットで殴られそうになってたら助けるに決まってる。まあ私には多少力があったから、咄嗟に跳び蹴りを食らわせることができたのだが。
そう言うと彼は興味なさそうにふうん、と欠伸をした。

「それにしても強いですね。もしかして有名人?」

「……お前ワタシを知らないか?」

やっぱり多少有名なのかと思いながら、今年編入してきたばっかだからと言うと、黒い彼はへえ、と少し私に興味を示した。…あ、何やってんだ私、こんな物騒な人に興味持たれて大丈夫か私。
急いでこの場を離れようと、「あっ、そういえば今日ドラマの再放送が」とベタな嘘をついて彼と別れようと試みた。が、それも虚しく、彼は去り行く私の右腕を掴み、引き止める。振り向くと黒い人はニヤニヤしながらこちらを見ていたので、無意識に冷や汗が流れた。

「面白いヤツね、お前今日からワタシの下僕にしてやるよ」

そんなのノーセンキューです、と言おうにも、私に有無を言わさないかの様に彼はさっさと空き地を去っていくのであった。









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