ワンダフルデイズ | ナノ



ここ狩人高校は、伝統的に男子生徒が多い。現に私のクラスも七割が男子だ。…まあだからといって、私は恥ずかしがったり数少ない女子と固まったりはしない。別に男好きとかそんなんじゃないけど、幼い頃から自由に育てられた私はどこか男勝りなところがあり、自然と女友達より男友達の方が多かった。まあそっちの方が楽だとも思っているのは確かだが。
クラスメイトが順番に自己紹介していく様子を、頬杖をつきながら眺める。恥ずかしいのか声がボソボソとしか聞こえない女の子、やたら元気な男の子、笑いをとろうとして滑っている坊主の男の子。私はどうしようかなあと考えていると、前の席の生徒が私の名前を呼んだ。あれ、私名乗ったっけと疑問に思いながら彼を見ると、男子生徒は困ったように覚えてない?と笑った。

「俺だよ、小学校のとき一緒だった」

「……太郎?」

そう言うと彼はよかった、とまた笑う。
彼の名前は山田太郎。小学校の頃までの幼馴染みで、同級生の子達にはベタな名前だとよく笑われていた。角言う私もその内の一人なのだが、慰めるのも私の役目だった。慰める、と言っても太郎もそこまで気にしている訳でもかなったが。因みに私の父親が死んだときは、逆に私を慰めようとしていて、何を言おうか困っていた彼の様子には腹を抱えた。
このような、知り合い以上友達未満な関係が何年も続き、いつの間にか彼は親友という位置にまでいた。そんな幼馴染みは中学に上がると私立校に行ってしまい、家もそんなに遠い訳ではなかったがそれ以来会うことはなかった。高校もてっきり私立に行くものと思っていたので、目の前にいることに全く気付かなかった。なんせ名前も(ある意味では珍しいが)見た目も、至って普通な奴な上、三年ほど会っていなくては気付かなくても仕方がない。中学生の三年は短いようで長いのだ。…まあ、頭は学年トップと憎たらしい一面もあるのだが。

「何でここ?太郎ならもっと上にいけるだろうに」

「…うーん、何て言うか、さ。俺親の跡継ぐの嫌になったっていうか。ここなら色んな人がいるだろ?その中で俺なりに夢を見付けたいっていうか…」

彼は上手く言えないけど、と言って人差し指で頬を掻いた。親と同じく、医者の道を行けば生涯安定するだろうにと言うと、太郎は特になりたくない医者で一生を終えたくないと言った。この三年で何があったか知らないけど、凄いなと思う。いろいろな想いがあって、ここに入学したのだろう。対する私は何も考えていない。ただ場所がいいからという理由で編入してきた。夢も糞もない、ただ単に日々を過ごしている。今の私には、太郎がひどく輝いて見えた。

「…あれ?ナマエは元からこの学校にいたっけ」

「ううん、今年編入した」

先程自己紹介の前に配られたプリントに目を通しながら言うと、彼はそう…と言って黙った。私の家庭状況を知っている唯一の彼は、何かと察したのだろう。特に何も聞いてこず、ホームルームが終わったら校内案内してあげようかと言われたが断っておいた。私には行かないといけない所がある。そう言って握りこぶしを掲げながら燃えていると、太郎は呆れたような顔をした。

「……ナマエはまた面倒事でも?」

「違う、仕掛けてきたのはあっち」

絶対あの場所は譲らん!心の中で決心を固めていると、自己紹介の順番が太郎まで回って、会話は中断された。その時やっと今がホームルーム中だということを思い出し、慌てて自己紹介の内容を考え始める。

−−−ミョウジナマエです、好きなものは少年漫画で、特にジャンプをよく読みます。趣味特技は特にありません、群れるのは苦手です。宜しくお願いします。

………駄目だ、今回も女友達ができる気がしない。
憂鬱な気分のまま、順番は無惨にも私の元へと回ってくるのであった。









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