ワンダフルデイズ | ナノ



「………何ですか」

「何が」

「何でそこにいるんですか」

「そんなの、ここがワタシの特等席だからに決まてるね」

全身真っ黒な彼は女性に対して大変失礼な発言をした後、何事もなかったかのように私がいるところまで上ってき、これまた当たり前のように私の横に寝転がった。彼が言うにはここは彼のお気に入りの場所らしい。…と、言うことは私と同じ学年かな。小さかったから(と言っても私と同じくらいだけど)一年生かと思った。ま、新入早々こんなガラの悪い一年生もなかなかいないか。…ていうか入学式は明日だし。
私は右隣りの彼に少しスペースを空けるように、若干左へ寄った。不良さんが隣で寝てきても、起きて式に参列する気は全くないのである。そしてパンツを見られたことに対して最低だの最悪だの罵る気もない。こういう類は怒ったら大体逆に喜ばれるのだ。まあ、彼の方に向いて大口を開けて罵る言葉を考えてそれを発するという動作が単に面倒臭いだけというのもあるのだが。取り敢えず明日からはスパッツを履いてこよう。
頭の後ろで手を組み目を綴じる。春の生暖かい風が足の裏から太股を通って服の上を流れ、前髪を巻き上げる。何とも眠気を誘い、且つ人の気持ちを穏やかにさせる流れだろうか。恐らく隣の彼も同じだろう。もしかしたら彼はこれが好きで、ここにいるのかもしれない。…まあこんな素敵な場所を今後もこの人に譲る気はさらさらないけど。早い者勝ちとか、そんなの在校生に編入生である私が勝てる訳がない。
暫く綴じるか綴じないかの間をさ迷っていた瞼の隙間から流れる雲を眺めていると、学校のチャイムが鳴った。始業式は終わったようだ。確かその次はクラスでホームルームだって、眼鏡の如何にも頭が堅そうなおじさんの先生が言ってたっけ。そこで私自己紹介とかしなきゃいけないんだろうなあ。…あ、他の人達も今日初めてクラスメイトとご対面した訳だから彼等もするのか、自己紹介。というかしてもらわなくては困る。
さっき鳴ったチャイムは10分間の休み時間の合図だった。上半身を起こして伸びをする。クラスの場所なら把握してるし大丈夫だろう。
よし行くか、と立ち上がってすぐ、斜め下から声が掛かって動きを止める。勿論声の主は不良の彼しかいない。まさか話し掛けられるとは思っていなかったので、少々驚きながらも何?と返した。彼は上半身を起こして胡座をかき、こちらをじっと見る。その視線を不快に感じ、眉間にシワを寄せながらもう一度何?と問うと、彼は何処行くかと聞いた。…そんなの決まっているじゃないか。

「式終わったみたいなんでクラスに戻ります」

「…へえ、じゃあもう来るんじゃないね」

それだけ言うと彼は私とは反対側を向いて再び寝転がってしまった。何だコイツは。何なのだ、どうやったらこんな自分勝手な自己中人間(おまけに失礼)ができるのだろうか。畜生、親の顔が見てみたい。
言い返したい気持ちを押し殺し、彼に背を向けて梯子を下りる。落ち着け私、こういうのは言葉より行動だ。絶対昼休みの時間来てやる。というか休み時間全般来てやる。
きっとこの負けず嫌いの性格も母さんからきてるんだなと思いながら、校舎へ続く階段を黙って下りていった。









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