いやさ、私だって悪かったと思ってるよ?いくら弟子ができて特訓に夢中だったからとはいえ、連絡の一つもせずに三年も姿を眩ませてたなんてさ。正直自分でもびっくりだったというか…いやいや私が悪いもんね、うん、私が悪い。申し訳ございませんでした。
「カタカタカタカタカタ」
「ホントーにごめんなさい。いやほんと、いや、その顔でカタカタ説教されるの流石の私でも耐えられん…いや、耐えられません許してください」
「…ほらイルミ、キミの可愛い妹が泣きながら謝ってるんだから許してあげなよ◆」
泣いてないから。泣きそうだけど辛うじて泣いてないから。
…そう、見てのとおり、本試験会場に着いたと思ったら、早速変装中のイル兄に見つかってしまったのだ。何でいるの、何でその顔なの、何で喋らないの。
疑問は浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返し、ただ黙って正座をさせられる。23にもなって兄に説教されて泣きそうになるってどうよ。妹の専売特許?そんなもんこっちから願い下げだコノヤロー。
「………ギタラクル」
「ん、ああ、今はそれだったね」
やっと喋ったと思ったら自分の偽名を名乗っただけだった。
彼が今こんな顔で、しかも偽名まで使っているのはここにキルもいるかららしい(ヒソカ談)。え、あの子まだ10歳ちょいでしょ、母さん外出許したの?ずるくね?私がそれくらの時外に出たら父さんまで使って連れ戻したくせに!
「家出したんだって◆母親と次男刺したらしいよ」
「あ、そうなの」
「カタカタカタカタ………ヒソカ煩い、俺が話す」
今まで喋れって言っても喋んなかったくせに。
…なんて軽口も今は飲み込む。それよりどうしようかなー、キルも怒ってるかな?もしかして私のこと忘れてるんじゃない?悲しいね。ホントはゴンを見守りに来ただけ(あわよくばハンター証もゲット)なのになあ。帰ろうか、うん、ゴンなら合格出来るよね。
−−−ジリリリリリ
「!」
帰ろうと決心した直後に鳴り出すベルの音。なんてタイミングの悪い。私のやり場のない怒りは試験官へと向く。
…が、スタンと上から降ってきたのはこれはダンディーなオヒゲのお兄さん。サトツさんって言うんだって!結構タイプ!
「…そういえばなまえの好きなタイプってオジサンだっけ◆」
「オジサンじゃない!ダンディーな男の人!私結婚するならお父さんかサトツさんがいい」
「俺は認めないよ、てか結婚させない」
それは過保護?シスコン?それともただの悪意からくるの?
そう言おうにもイル兄は有無を言わさず私の襟首を掴み、ズルズル引きはじめた。逃がさないってか、逃がさないってか。…つか首締まってる!
隣で走る、ヒソカのニヤニヤした顔が一層私を苛立たせるのはいつものこと。
「逃げない!逃げないから手ェ離し……ッぐえ」
「じゃあさっさと走って」
「大丈夫かい?」
今更だけど、この二人絶対私を舐めてる。いや、昔からだけどさ。私が反省して下手に出てるのをいいことに…!ああ数時間前に別れたフェイが恋しい。いや、彼も十分サディストですけども。あれ、私の周りサディストばっかじゃね?
「そういえば髪染めたよね、なんで?」
「…ふん、教えない」
あ、そうだゴン探さなきゃ。
本来の目的を思い出し、少し前を走る二人から離れる。何も言ってこないってことはもういいのかな。
「…怒っちゃったねえ」
「…………」
長男が密かに軽くショックを受けていたことは、本人と奇術師しか知らない。
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