「そういえばさあ、一ヶ月前の話に戻るけど、ヨークシンで何盗むの?」
「知らないよ。ただ団長はオークションの品が欲しい言てたね」
成る程ー。
あまり興味がないので、適当に流して焼けた魚を口に頬張る。だがフェイはそれが気に入らなかったのか、私の魚を横取りして口に含んだ。最後の一本……!
「この野郎!食べ物の恨みは恐ろしいぞ!もう一戦するかばかやろー!」
「もうそんなことしてる暇ないよ。明日試験の日違たか」
あっそうだった。…そういえば試験会場どこ?
そう問うと思いっ切り馬鹿にしたような顔をされた。凄くムカつく。
「……シャルに聞けばいいね。きと知てるよ」
そうかそうか。あの似非王子。
ところがズボンのポケットに手を突っ込んだとき、今携帯がないことを思い出す。フェイに視線を送れば、彼は溜息をつきながらも貸してくれた。ありがたし!
『うわ、なまえ!ホントに生きてた!』
大変失礼極まりないシャルの第一声を聞き流し、試験会場の場所と合言葉を教えてもらう。うわって何だ、うわって。
「んー、ザバン市かあ。そこまで遠くないかな」
「もう行くか?」
「まーね、この年で遅刻って格好悪過ぎでしょ。いやー、一ヶ月も付き合わせちゃってごめんよ」
「…別にいいね、暇だたし。それにお前に振り回されるのは馴れてるよ」
おー、分かってらっしゃる。
フェイは火を消し、干してあった黒装束を手に取って羽織った。男はいいよなー、いざとなればパンツ一丁でも大丈夫なんて。荷物が少なくて羨ましい。
フェイはこれからどうするのと聞くと、彼はどこかフラフラしてると答えた。
「そっか、そんじゃーね。受かったら連絡する」
「別にいらないよ。なまえなら楽勝ね」
それもそうかと笑って、フェイとは別れた。
一人になると改めて、友達の存在が大きく感ぜられる。いや、家族も大切だけど。帰るの怖いなあ、なんて。
「ステーキ定食、弱火でじっくり」
はいよー、というおじさんの元気な声と、奥さんのこちらへどうぞという声に導かれて奥の一室へ入る。あ、肉美味そう。
(そうだ、適当に変装しとくか)
帽子を被って伊達眼鏡をかけるだけという、本当に適当な変装。変装か?これ。まあゴンは変なところで鈍いからいいか。
(おおー、むさい!)
地下百階に着いて直ぐに注目を浴び、少し不愉快だった。
まあそんなの無視無視と、豆みたいな人からナンバープレート(因みに333番)を貰い、人混みの中へ入る。ゴンはまだかなー、とキョロキョロしていると、なんだか頭の眩しい人と目が合った。眉毛は笑うところなのかな。
「よ!女か、珍しいな」
「どーも。帽子持ってないの?ちょっと頭が眩しい」
「うるせーよ!初対面の人に向かってなんだそれ!」
そんなハンゾーとの出会いにも関わらず、暫くしないうちに打ち解けてしまった。因みに私の「ジャポンのご飯美味しいよね」の一言がきっかけである。
「…………っ!」
ハンゾーとの会話中、突然背中に突き刺すような殺気を感じた。これは私達に向けてのみ放たれているようで、ハンゾーは驚いたように私の後ろを見ていた。何だと振り返る前に、無機質な音がして身体を強張らせる。
「カタカタカタカタカタ」
…いや、これは振り向かなくてもわかる気がする。いやだって知ってるもん。このオーラっていうか雰囲気っていうか。…てかハンゾー煩い!わかってるってば!つか誰だチクったやつ!…ってフェイしかいねーじゃねーか、あのドS野郎!
ギギギとぎこちなく振り向くと顔面針人間が立っており、私が無言のまま手を引かれて行くのをハンゾーはただただ見守った。
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