今日の訓練を終え、ボロボロな身体のまま自室へと戻る途中に、必ず通るある一室の扉がある。そこはもう既に三年は使われておらず、しかし使用人によって掃除はされ綺麗に保たれていた。
その部屋の持ち主は今どこにいるのだろうか。いつ戻ってくるんだろうか。…そもそも、生きているのだろうか。
鍵の掛かっていないその扉を開ける。一人で寝るには大きめのベッド、母親の趣味の、一度も着られていない服が入ったクローゼット、タンス、何も乗っていない机、椅子。あとはこれまたお袋が置いた鑑賞用植物。昔も今も母親好みに模様替えされているが、当の本人は自分の部屋がどうなろうと気にならなかったようだ。
一歩、一歩と、部屋の中へ進む。そのままベッドの横に行き、疲れた身体をそれに埋めた。自分の身体が汚れているけれど、明日になったら布団は洗濯してくれるだろう。
顔を埋めた場所からは洗剤の匂いがして、部屋の主の香りは何処からもしなかった。そのことがとても淋しく感じて下唇を噛む。

(姉貴……いつ、帰って来んの…)

ゾルディック家で一番優しい、俺の姉。強くて、優しくて、楽しくて。訓練だって姉がいたから頑張れた。彼女が家にいるときはいつも、終わった後は必ず褒めてくれた。温かくて細い手で、頭を撫でてくれた。初めての仕事から帰ってきたときは抱きしめてくれたし、その後も仕事から戻ってきたら温かな笑顔で迎えてくれて、そのお陰で辛い殺しもやっていけた。
だけどある日、俺が仕事から帰ってきても、姉の姿は見当たらなかった。
よく、姉は仕事以外で家を空けることが多かった。長いときで一週間は戻って来ない日もあったぐらいだ。だからその時も特に気にすることはなく、しかしいつもより重い気分で部屋に戻った。
次の日、俺が訓練を終えても姉の姿はなかった。今回は長期なのかと思い、これも気にしなかった。
そんな日々が、もうかれこれ三年続いている。今日も姉は帰ってこない。

(………ごめん、姉貴。俺、………)

埋めていた顔を上げ、ベッドから降りる。布団のシワを伸ばし、部屋をあとにした。

「キル兄様」

部屋から出るとカルトが淋しそうな顔をして立っていた。
彼もあまり表情には出さないが、姉の安否を心配していた。きっと姉の部屋から気配がして、来てみたが彼女ではなかったのでがっかりしたのだろう。
悪いことをしたな、と思って彼の頭を撫でてやる。カルトは頭を下に下げて姉様、と呟いた。

「…大丈夫だって。姉貴の強さは知ってるだろ?いつか戻ってくる」

カルトは小さく頷いておやすみなさい、と言った。俺もおやすみと返して自分の部屋へと戻る。
明日は親父も兄貴もいない。…取り敢えず、ハンターの資格でも取ろう。姉を探すのは、それからだ。




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