三次試験はトリックタワーなるもの。生きて下に降りるだけ。シンプルイズベスト。適当なところで下に落ちた。

「…あれ」

落ちたそこは真四角の部屋。一瞬ハズレの部屋かと思ったが、隅っこに腕時計っぽいものが二つあったのでその考えは捨てた。どうやら今回は二人で進まなくてはいけないようだ。面倒だな。
数分して上の床がガコンといって開き、落ちてきたのは我が愚妹。あ、イル兄、やっほーとか、相変わらず口が閉じない奴。ほんと、試験中じゃなきゃまだ説教していたいくらいなのに。

「いたっ」

「遅い」

横でそんなの理不尽だとかピーピー煩いけど無視して顔の針を抜いていき、顔を元に戻す。コレ結構辛いんだよなあ。…おいバカなまえ、うわってなんだ。

「…ねえ、それえぐいからやめた方がいいよ」

「煩いな、仕方ないだろ」

さっさと腕時計を付けて先に進む。トリックタワーとは名ばかりで、単に囚人を倒して先に進むだけだった。なまえは俺の後ろでぼうっとついて来るだけで戦おうとしない。確かにこんなの俺一人で十分だけど、何だかムカついたので彼女にも針を投げてやった。

「……そういえばさあ、こうして二人で戦うのって久し振りだよね」

「………まあね」

確かにいつ以来だろうか。成長するにつれどんどん強くなり、それに反比例するように二人で仕事に行くことはなくなった。もう十年ほど行っていないかもしれない。…まあだから何だって話だけど。
俺達に死ぬ覚悟で向かってくる囚人や、敵わないとわかっているのか隅の方でじっとこちらを見ているだけの囚人もちらほらいる。彼等は己の今後を賭けてここにいるのだ。きっと頭の中は死か生かの二択なんだろう。それに対して、皮肉にも俺達の覚悟も思考も全くくだらないものである。彼等の決死の覚悟は、知らず知らずの内に踏み潰されて死んでしまう蟻の如く、いとも簡単に消え失せてしまうのだ。なんと滑稽なことだろうと思う。覚悟で人が殺せると思っているのか。

『301番、333番、12時間34分、三次試験クリア!』

…と、まあ俺にしては珍しく他人の事を考えてみた訳だけど、だからどうするとか、そんなんじゃない。ただ昔、なまえが言っていた事をふと思い出した。それは当時も今も、変わらず理解できないでいるけど、それでいいと思っている。理解できてしまっては駄目だと、俺の脳が警報を鳴らしている気がするから。兄妹の筈なのに、その言葉を聞いた当時、彼女が近くて遠い存在に感じたのを覚えている。なまえは、俺の知らない何かを知り、感じ、思った。それで悲しんだ。…あれ、あの時彼女は何て言ったんだっけ。何で悲しんだと思ったんだ?その時の感覚は覚えているのに、肝心の言葉が思い出せない。…ああ、くそう、苛々する。

「………なまえ、」

「ん?…あ、イル兄もトランプやる?」

あの時お前は何て言った?
そう聞こうと思ったけど、ヒソカの手品を見て喜んでる彼女を見ていたら何だかすっかりどうでもよくなった。もしかしたら、その時の彼女も特に深い意味で言った訳ではなかったのかもしれない。そうだったならばきっと言った本人も覚えていないだろう。俺はなまえが手招きする方へと歩み寄った。そういえば何か用だった?と聞く彼女に、なんでもないと返す。そう、と言ってトランプに視線を落としたなまえの横顔は、記憶の中の彼女の横顔と同じ表情をしていた。




< >
戻る

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -