私が初めて家を飛び出したのは九歳の頃。両親に一人で外出を許されたのは十五歳。それまでに何度黙って門の外に出たかはわからない。何を考えてたかも知らない。ただあったのは、我が家の庭の何倍何千倍もある、世界への好奇心だった。


「クク、…また抜け出してきたの?」

「うん。ヒソカ、次はパドキアの向こう側に行ってみよう」

そんなに遠くに行ったらやばいんじゃない?そう言いながらも、ヒソカは私の我が儘にいつも付き合ってくれた。でも彼にとってそれは優しさではなく、ただ面白いからという理由だろう。それでも普通の友達みたいに街に出掛けたり、たまに戦いごっこをしたりするのが午後のおやつよりも楽しみだった。

「向こうには何があるのかなあ」

「別にパドキアと変わらないよ」

「む」

ヒソカは色んなとこ行ってるもんね。
自由でいいね、とは決して言わない。別に彼に言われたからではない。だって、彼は好き好んで自由になってる訳ではないし。因みに自由だと言ってヒソカが悲しむとは全く考えてもいない。ただ、私に言う資格がないと勝手に思っているだけだ。
愛されているが故に自由を奪われた私と、愛を知らないが故の自由なヒソカ。真逆だけど、お互いに無いものに惹かれ合ってこうして一緒にいるのかもしれない。まあ二人とも一緒にいる根本的な理由なんて、一々話す事はしないから確かめようがないけど、恐らくそんな理由だろう。
あ、私は勿論家族だって大好きだ。大切だ。皆惹かれあってる。最近イル兄、ミルキの他に三人、新しい兄弟ができたし嬉しく思ってる。その内の一人は私と同じ銀髪で、父さん似の男の子なのを母さんが泣いて喜んでいたのが記憶に新しい。でも、私にとって家族愛は重すぎた。家族間の絆が強すぎて、逆に吐き気を覚えたこともあったぐらい。
今まで私は、好奇心だけで外に飛び出してきたと思っていたが、もしかしたら逃げてきただけなのかもしれない。何から、とはわからない。けど逃げたかった。逃げて逃げて、ずっと遠くに行きたかった。

「ヒソカ」

「ん?」

「私は弱いね」

そう言うと彼は驚いた顔をしてこちらを向く。反対に私は彼から目を逸らした。

「……急にどうしたのさ」

「………何でもない」

だけど、私は弱い。
今でも何が弱いのかわからない。がむしゃらに戦闘技術を磨いて強くなっても弱い私は消えなかった。
ヒソカの方には向かずに、丘から街を見下ろす。小さい。小さいけど広い。彼がどんな顔をしてるか分からない。何を思っているかも分からない。でもヒソカが私の頭をぽんぽんと撫でてくれて、私の視界は歪んだ。どうしてかも分からない。分からないよ。分からないことだらけだけど、涙が止まらないのです。

「…弱いなら、強くなればいい」

斜め上から聞こえて来る声に頷く。反動で一粒の滴が落ちて地面に滲みた。滲みた水は地面を伝って草木の栄養になるのだろうか。それとも地中の生物の水分になる?でも多分きっと、私の涙は何物の一部になることもなく枯渇するのだろう。分かっていながら、それでも止まることを知らないそれはヒソカの細い指に掬い取られた。私は無意識のうちに目を綴じる。
綴じた瞳の中で、ヒソカの冷たそうで温かい手が私の頬をなぞった。




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