「………マイナス…?」

聞き慣れない言葉に、眉間にシワが寄る。
化学で出てくるイオンでも、数式に出て来る横棒でもないことは明らかだ。
だとすると彼の言う"マイナス"とは何か。

「念じゃねーのか?」

「違うよ。なんだ知らないのか。まあ元からかなり需要ないからね、仕方ないよな。…うーん。念……とは違う、何か。かな」

ノブナガが問うと、なまえは顎に手を当て、考えるフリをしながら言った。
…物凄く曖昧だ。そんな答えでワタシ達が納得する筈がないが、本人もよくわかってないようだった。

「…じゃあ大嘘憑きって、あれ。それでフィンクスや自分、男達の傷を治したの?」

「うん、まあ正確に言うと"治した"んじゃなくて"なかったことにした"んだけどね」

「なかったこと……」

シズクが呟くと、なまえはそう!と言って両手を広げた。さも、国民に向かって熱烈な演説をするように。

「現実を虚構に!なかったことに!全治一年の大怪我も一生懸命作った工作も楽しかったあの日の記憶もやっと編み出した大技も!勿論死だってなかったことにできる!滑稽だろ?今まで頑張って生きてきた証が一瞬のうちに無に帰すんだ」

マイナス?虚構?なかったこと?
そんなことがあるのか。可負荷なんて聞いたこともない。
だが今目の前で起きた出来事は紛れも無い事実だ。念の力だけでは説明できない。特質系でもこんなこと出来ない筈。ならば真実か。
…とは言え本当にこんな力があるとしたら、放っておける訳がない。
どうやらシャルナークもそう考えているようで携帯で団長に連絡をとっている模様。ああ嫌ね、きと団長はコイツの力気に入るよ。そしたらコイツの不快な笑顔を暫く拝まなくてはいけなくなるね、最悪。

「……フェイ、すんげぇ顔してるぞ」

「うるさいね、眉なし」

フィンクスを適当にあしらって(隣でぴーぴー煩いが無視)、確認を終えたシャルナークに向かう。

「団長何て言てたか」

「うん…連れてこいってさ」

やっぱり。予想通りの返答に軽く舌打ちを零す。

「……ま、そういうことだから。大人しくついて来てよ」

「えー、本当に?困ったなあ、君達から逃げられる自信なんてないし。…仕方ない、ここは大人しく捕まっておくよ。ああ、なんて僕は不運なんだろうなあ……………なんてね」

「!!」

トボトボと肩を落としながらこちらに歩いてきたと思ったら、彼は素早い手つきでワタシ達を例のネジで壁に貼付けた。さっきと違うのはネジが体を貫通していないところか。
しかし体の外の微妙な位置に刺さっているため、直ぐには抜け出せない。だが彼がここから逃げ出すには十分な時間稼ぎが出来るだろう。クソ、油断したよ。

「僕も流石に捕まるのは嫌だからさ!嘘ついてごめんよ!そうやって君達の隙をつくんないと逃げれそうになかったからさ。それじゃあね、怪しい集団の皆さん!」

満面の笑みで片手を挙げながら走り去るなまえ。次会ったら……いや、見付けたらただじゃおかないね、糞餓鬼。


マザー、羊と犬とがそれぞれ三匹夜逃げしたみたいだよ。


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