「何者だ、てめえ」
「うーん、その質問を聞くのはこれで三回目だけど。あれ、僕言ったよね?聞いてなかったかな?じゃあもう一回言お……」
「いらねえよ、てめえの訳わからねえ自己紹介ならちゃんと聞いてた」
「酷いなあ、人が話してるときに自分の台詞を被せるなんて。僕傷ついちゃったよ」
傷ついてる風には見えねえがな、と言うとアイツはばれた?と言って笑った。気味が悪ィ。そういえばいつの間にか彼の怪我や服の汚れは綺麗さっぱりなくなっている。これもこいつの能力なのか。
「まあ、聞きたい事があるなら聞きなよ。包み隠さず話してあげるぜ」
「…案外素直なのね」
「まあね、僕は相手の強さと自分の弱さは弁えてるつもりだから。無駄なことはしない主義」
賢明だな、とフィンクスが言った。確かに、コイツは馬鹿ではないようだ。
すると直ぐにシャルが彼に問うた。
「じゃあまず。君はどうしてそいつらに追われてたの?」
流石蜘蛛を代表する頭脳派。聞きたい事なんか山ほどあって普通は俺みたいに混乱しているだろうに、きちんと順を追って質問している。
他の奴らもシャルの問いに異論がない為か、黙ってなまえの返答を待つ。
「うーん、そうだなあ。…僕がなんでも屋をやってるとは言ったよね。それで同業者の中でも僕は異端でさ。一部の人達にしか知られてないんだ。まあ僕が月に二、三回しか仕事しないせいでもあるんだけど」
「それが何ね」
「まあまあ、そう焦るなよチビくん。…それで、僕が知られてない原因の大半はさ、依頼主が僕を……っていうか僕の力を手に入れようとするばかりに、僕によって壊滅されて、口コミが流れなくなるんだ。迷惑な話だよね。まあ壊すのはお金貰ってからだから別に困ってはないけどね」
「………成る程。じゃああいつらは君の依頼主の使用人…ってとこか」
なまえはそうゆーこと、とまた笑った。
"チビ"という言葉にキレかけたフェイを押さえながら二人の会話に耳を傾ける。確かに筋が通っている。だがそうなると、そこまでして手に入れたいこいつの能力って一体なんなんだ。
恐らくここにいる全員が疑問に思っていることで、シャルも例外ではない。
「…だったら、そいつらがそこまでして手に入れたい君の力って何だ?」
辺りが異様な静けさに包まれる。
月明かりに照らされたなまえの口元は三日月のように吊り上げられ、至極不気味だった。
「……能力の手の内を明かすこと、則ち敵に弱点を教えるが如し。よって、君達に僕の能力は教えられない。まあ交換条件で君達の内の一人の能力を教えてくれたら教えてあげてもいい」
「………なら力付く……」
「…なーんてね!嘘だよ。包み隠さず教えるって約束したもんね」
「……………は?」
一同唖然とする。ホントこいつ訳わかんねえ。
「それに僕の可負荷を教えたところで防ぎようなんてないしね!僕がさっき見せたのは"大嘘憑き(オールフィクション)"。現実をなかったことにする力さ!まさしく、可負荷だろ?」
生憎ですが、私は貴方を存じません。
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