俺もなかなか何考えてるか解らないと言われるけれど、彼に比べたら俺なんか解りやすすぎてヘドが出そうなくらい、なまえの笑顔は不愉快だった。
「あ、そうだ」
彼は俺達が呆然としている中、全く気にするそぶりは見せず、くる、と左を向いた。歩き出した先には、彼がやったであろう、血まみれで串刺し……いや、ネジ刺しになって小さくうめき声を上げる男達がいる。
何をするのかと黙って見ていると、なまえは一人の男の前にしゃがみ込んだ。
「……っひっ」
「……さて、さっき助けてって言ってたよね?言われたから助けようと思うんだけど、やっぱり僕もボコボコにされて痛かったからさー、助けてあげようとは思えないんだよね。いや、僕基本弱いものと愚か者の味方だけどさ、こんな最低な僕にもプライドってものがあるんだよね。嘘だけど」
「………っ!すまっ……ごめっん……な、さ……っ!もう二度っ、と、あんたには、近…………、づかな………っから、たすけっ……」
大の大人の男が十代そこらの男の子に泣きながら命ごいなんて、なんて憐れで滑稽なんだろう。これなら殺された方がましだろうに。
そう考えていると、別のスキンヘッドの男が声を荒げた。
「……俺は、っいい…!助けて、なんか………いらねえから、はやっ……く、ころ、せ…………!!」
これは男としてのプライドがものを言うのだろう。殺されかけた相手に助けてもらったところでその後の人生は死んだも同然だ。
ところがなまえは、そんな彼の覚悟をいとも簡単に握り潰した。
「え?なにそれ?男のプライドってやつ?埃ってやつ?あ、違うか誇りだね。そんなもので自分の命を捨てようなんて言うなよ、世の中生きたくても生きられない奴が何十万何百万といるんだぜ。命は大切にしないと」
満面の笑みで命を語る彼に違和感を覚える。…それもそうか、そもそもこの血だまりを作ったのが彼自身なのだから。
スキンヘッドの男が目を見開いて放心状態なのにも関わらずなまえは続ける。
「それと僕は、この泣きべそかいて命ごいしてきたお兄さんが、素直に僕をボコッた事に対して謝ってくれたから、僕はここにいる五人全員助けるつもりだぜ。この人に感謝しなよ、プライドを投げ捨ててまで不様に謝ったお陰で君達はこれからを生きることが出来るんだ。よかったね、おめでとう。今日という日は一生心に残るかもしれないけど大丈夫だよ、きっとこれからいいこともあるさ!少なくとも僕よりはね」
言い終わった途端、一瞬にしてネジや男達の傷は嘘のように消え失せた。まるで、何事もなかったかのように。
今まで自分は幻術にでもかかっていたのかと思ったが、五人の男達の、心ここに有らずな表情を見てああ現実だったんだと実感した。
カメレオンの衰死体
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