一年以上ぶりに会った彼は酷くボロボロで。天下のA級首がなんて様だと笑ってやっても、目の前の男は弱々しく笑うだけだった。
「何だか暫く会わないうちに威厳みたいなのなくなっちゃったね」
「そう言うお前も、変わったな」
いい意味で言っているのか、はたまた皮肉を込めてのそれなのかはわからない。取り敢えず僕は意味のないありがとうを言う。本当にこの言葉に意味はない。それを彼がどう解釈したかは知れないが、クロロは本当にそう思っているぞと言う。多分きっとそれにも意味はない。無意味な会話はそこで終わる。恐らく今のコンタクトは時間が経てば真っ先に忘れる出来事だろうけど、今はその会話が何故か脳裏にこびりついている。それが気になって少し思考してみるけど言葉の裏になにかが隠れている訳もないので、やっぱりそれは無意味に終わった。再び思い出してみると今度はただの会話に過ぎず、何かにひっかかることもなく、すんなり記憶のなかに紛れていった。
「ウボォーが死んだ」
誰かに聞かれた訳でも、まして僕が聞いた訳でもないけどクロロはこれまでの出来事を話し始めた。要約すると蜘蛛に恨みがある鎖野郎に、彼等は大打撃を食らわされたらしい。それは大変だったね。
「んー、じゃあ僕ウボォーギンの為に一曲歌おうかな。千の風になって」
「…いい。ウボォーの弔いはもう俺達で済ませた」
やんわり断られたことに口を尖らせながら空を仰ぐ。季節はすっかり秋で、既に冬の寒さが身に染みる。因みに今僕らがいる場所はジャポンという島国で、この国のはっきりとした春夏秋冬は結構有名だ。クロロは占いに従ってひたすら東へ進んでいたら、偶然着いたらしい。僕もここへ来たのは単なる気まぐれだ。ふらりと立ち寄った国で、道行く人々の会話からジャポンの話が聞こえたからとか、そんな理由。そう考えると二人が出会ったこれは、まさに奇跡。…まあだからと言って感動の再会に涙を流したり抱き合ったりする訳ではないく、「あ、久しぶり」程度だ。巡り合わせって、大体そんなもん。
気が滅入るような秋晴れ空を眺めながら、僕は口を開く。
「僕はね、幸福になってはいけないんだ」
「………」
「なったことないからわかんないけど、そんな気がする」
「気がするだけか」
「うん。でも、僕の悪い勘だけは当たるんだよね」
でも今まさに僕は、幸福になろうとしている。
「何たって僕は、君達といた数ヶ月間が忘れられないでいるから」
視線をクロロに戻すと、彼と目が合う。
「それでいいんじゃないか?」
その表情は無表情で読み取れないけど、何となく嬉しそうな顔をしていると思った。それと同時にまた胸がきゅうと締め付けられる。一年前はそれに気付かない振りをしたけれど、今度はその感情と向き合うことが出来た。きっとこれが幸福。
「………クロロに掛かってる念、無かったことにしてあげようか」
幸福になってはいけない。何となくだけど、幸福者がこの可負荷を使ってはいけない気がするのだ。気がするだけ。それでも僕は、こんな僕を幸福にしてくれた友達の為に引き金を引くよ。
「ばーん」
終曲、僕は引金を引いた。
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