「いやあ、本当にありがとう!助かったよ。君は僕の命の恩人だね」

「あはは、オレもびっくりしたよ。お兄さん川から流れてくるから」

目の前の少年ゴンが言うには、ここはくじら島という場所。僕は気絶しながら川を流れてきたらしい。何故か、は、まあかくかくしかじか。僕もこう見えて大変なんだよね。
そんな訳で丁度森の中で遊んでいた彼に助けられた僕は、ミトさんに美味しいスープを貰った後、ゴンと森に来ていた。にしても彼は野生児の中の野生児だね。前世犬だろ。そう言うと彼に笑って流された。彼のスルースキルは素晴らしい。それとゴンには近付くのに、僕には決して近付こうとしない動物達に僕のハートはブレイク寸前。嘘だけど。…あ、いて、リスに噛まれた。ゴン笑うなよ…。そういえば動物に触れたのは初めてかも。

「…オレさ、今度のハンター試験うけて、ハンターになって、父さんを探すんだ!」

川岸に座り、透き通る水の中に石を投げながら彼の話しを聞く。水面に波紋が広がって、二人の姿がぼやけた。

「……凄いね、偉いね」

心の底からの、最大の賞賛。僕より七、八年も幼い彼にはきちんとした夢があった。ゴンは照れたように頬を人差し指で掻いて、えへへと笑う。その笑顔が自分には眩し過ぎて、思わず目を逸らした。
陽は傾きかけて、空の入道雲を橙色に染める。昼行性の動物達は寝床に戻るため世話しなく動いていた。彼等は一日を十二時間で過ごしているのだろうか。そう思うと、自分が一日を二十四時間で動ける人間であることに優越感を覚えた。何てちっぽけな優越感だろう。彼等が知ったらきっと、こんなことに優越感を覚えるなどなんて憐れな人間だろうかと軽蔑の眼差しを送るに違いない。でも、それでもいいと思った。

「…そろそろ暗くなってきたや。家に帰らなきゃ」

「ん、ああ、そうだね。それじゃあ僕はさいならするよ。本当にありがとう、ミトさんに宜しく伝えといてね。この恩はきっと一生忘れない!ハンター試験頑張って」

「え……でも怪我は」

昼間巻いてもらった、右腕の包帯を取って見せると彼は驚いたように目を丸くした。なんせ川で流れている間に血が出てドロドロだった腕が、何事もなかったかのように完治していたので無理もない。きっと聞きたいことは山程あっただろう。どうして川から流れてきたのかとか、どこから来たかとか、怪我はどうやって治したか、とか。彼は我慢強い子供だ。余計なことは相手が触れてこない限り決して干渉しようとしない。大切な人や仲間なら別だろうが、彼はこの歳で他人との距離感をわかっているようだった。

「また遊びにきてね!」

…いや、自分ルールで言ったら、ゴンはもう僕の友達か。胸がきゅうと締め付けられたのには気付かない振りをする。
僕はちょっとカッコつけて、彼に背を向けたまま手を振った。


真夏のサウダーボーイ


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