少し昔の話をしようか。

その夜は満月の夜だった。何気なしに家の屋根の上を散歩していたら女の悲鳴が聞こえ、見てみると数人の男がその女一人を襲っていた。ボクも相当の悪だと思うけど、彼等よりは落ちぶれているつもりはない。殆ど無関心な目で、だが暇潰しにとその一部始終を見届ける。彼女を助ける力があるのにこうして助けず傍観して楽しんでいる自分はやっぱり彼等以上に最低なのかもしれない。
ふと、暫くして彼等の後ろ側から、少し小柄な青年がやってきたのが見えた。男女はそれに気付かない。見た目から弱そうだが、ある程度念が使えるようだ。専ら自分の興味は彼に向いた。何をするのかと青年の様子をじっと見ていると、彼は静かに巨大なネジを取り出す。それらを隠す場所が見当たらないので、恐らく彼は具現化系能力者なのだろう。彼はそれを男共に投げ付け、地面と繋げた。ボクから見れば(油断してなきゃ)避けられる攻撃は、一般人からすれば何が起こったのかわからなかっただろう。ただ己の視界に入る、ネジに貫かれた手足が、彼等に恐怖を与えるには十分だった。青年は男達に何か言った後、震える女の元に歩み寄った。当たり前のように彼女には怯えられ、青年は何を思ったのかその女の顔にネジを突き刺した。それに笑い上戸になっている彼にトランプを投げる。

「………おや」

勿論避けられると思っていたので手加減はしていなかったそれは、青年の喉元を切り裂いた。狂ったような笑い声は止まり、呆気なく彼は死んだ。何だお門違いかと少しがっかりして立ち上がる。ボクの勘も鈍くなってきたかなあ、と思いながら月を眺めていると、後ろに動く気配を感じた。

「…痛いなあ、君誰?びっくりするじゃないか、いきなりこんなもの投げられちゃ。僕今ナイーブなんだよねえ。聞いてよ、折角助けてあげた女の子に化け物って言われちゃった。あー、心は痛いし、追い討ちのように君にも喉切られちゃうしね。そういえば君凄いね、全然気配感じなかったよ。もしやプロ?」

「……ナイーブな割には気にしてなさそうだけど◆」

そう言うと彼はあれー、わかる?と言って笑った。だが己の思考は、先程自分が彼を殺した事実を探していた。さっき、確かに死んだ筈。なぜだ、幻覚?…いや、そうしたらボクが油断している間に後ろに回るなりなんなり出来た筈だ。それなら…

「何やら難しい顔をしているね?…あ、もしかして"殺した筈なのにどうして生きているんだ"ーとか考えてる?だったら安心しなよ、君は確かに僕を殺した。今僕が生きているのは決して君の過失じゃあないぜ」

これも何かの縁だ、僕の可負荷について教えてあげるよ。そう言って青年は語りはじめた。それは確かに恐ろしい能力であったが、同時に悲しい産物だとも思う。ボクがつまらないねと言うと、青年は悲しそうに笑って、ありがとうと言った。後ろで満月が、変わらず太陽の光を反射していた。

なまえと初めて会った日、あの頃を思い出すと最近の彼は少し…いや、大分変わったなあ、と思う。それがいい変化なのか、はたまた悪い方向に向かっているのかはわからない。だが、彼一人の人間が何かしら変わってしまっても、地球は変わらず回り続けるだろう。


泣いて笑ったあの日の君はもういない


prev next



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -