取り敢えずの感想は、疲れた。ああ疲れた。あれから二時間経ち、やっとのこさ屋敷探険が終わった。…いや、確かに僕から言い出したことだけど、広すぎだろ。家の中での移動手段は自転車がベストじゃないだろうか。というか広すぎてどこがどこだか既に分からないんだけど。え、ていうか部屋いくつあったっけ、途中から数えるの忘れてた。まあ喋りながらだから、仕方ないか。

「あはは、こんなので疲れてんの?大丈夫かよ」

「馬鹿だなキルア、僕の持久力のなさは一般人並だぜ」

「それってフツーってことだよな」

それを言ってしまうと君は普通じゃないって事になるけど、という言葉は飲み込んだ。そんなの今更だし、僕も人のことは言えない。…本当、この可負荷がなきゃ、僕は今頃普通の青年をしていたのだろうか。蜘蛛にも捕まらず、殺しなんかしない、健全な友達に囲まれていたのだろうか。
…それはそれで面白いけど、つまらないだろうなあと思う。別に蜘蛛に捕まりたい訳でも、殺しばかりしてる血生臭い友達に囲まれたい訳でもない。ただ今となっては、平穏はつまらないものに降格してしまった。ああなんと皮肉な。この感情を少しでも、平穏を願ながらも叶うことのない人達に分けてやりたい。

「…あ、ねえ、もうすぐ四時だけど」

「え、まじ?やば。…じゃ、キルアありがとう、わざわざ案内してくれて!楽しかったよー、じゃあね!」

「おー、…玄関わかんの?」

慌ててキルアの部屋から飛び出そうとする僕を、彼はそう言って引き止める。あはは、と苦笑いを浮かべると、キルアは呆れたようにはは、と笑った。
急いでこれまた大きな玄関に案内してもらい、今度こそ本当のまたねを言う。彼は次はゲームをしようと言って手を振った。僕もそれに振り返し、森の中を駆ける。やばいなあ、ヒソカの事だから一分でも過ぎれば即、おいていくだろう。今はお金を持っていないから勘弁してほしい。走りながら時間確認の為携帯を開く。しかし画面は真っ暗で、そういえば電源切ったんだと思い出し、諦めて閉じた。
木と木の間を走る、走る。途中大きくておっかない動物を見掛けたけど、一々ビビってられない程僕は急いでいた。多分今までで一番速く走ってると思う。…あー、やば、息切れてきた。きっと着く頃には過呼吸だなあ、とか呑気に考える。それでも身体は呑気じゃない。必死だ。そういえばこの森も山も、みんな彼等の敷地らしいね。もうお金持ちどころじゃねーよ。罠とか仕掛けられてないかな。
数分走って漸くあの馬鹿でかい門が姿を現した。もう自分の息は切れ切れで、汗も半端ない。もう少し体力づくりしようかなあ。上がる息を落ち着かせる隙もなく、見た目からして重苦しい門に手を当てる。…も、一向に動く気配を見せない。あれ、開いてるよね?キルアそう言ってたし…ん?もしかして力不足とか?……そんな馬鹿な。

「…ふ、ぎぎぎぎ……!」

渾身の力を込めて門を押す。するとゆっくり、一番小さな門が開いた。安心して少し力を抜くと、再び門が閉まろうとしたので慌てて力を入れる。…流石にこの門をなかったことにしたら怒られるよね。一、二分の格闘で一生分の運動をした気分だった。
ぜえぜえと息を整えながら辺りを見渡す。…が、急いで来たにも関わらずヒソカの姿は見当たらない。もしかして彼もまだ来てなかったりするのかな。ふうと息をついて門の側に腰掛けようとした時、その門に四角い何かが刺さっているのを発見する。それはジョーカーのトランプで、ご丁寧にも遅いからおいてくねというヒソカからのメッセージだった。


泣きそうになって顔を歪めた


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