彼の部屋は思ったより片付いていて、埃ひとつ見当たらなかった。きっと毎日使用人が掃除でもしてるんだろうなとか考えて、心の中で顔も知らない彼等に称賛を贈った。…あー、やっぱりベッドふかふか。

「おい、バカ!寝んなよ」

「あ、おかえり。早かったね」

そういえばさあ、君ハンター試験受けるの?そう言って先程見付けた(というか漁った)申し込みカードを見せると、彼は慌てたようにそれを奪い取った。折角お風呂に入ったのに、もう汗かいてるよ?彼は誰にも言うなよと、大きな瞳で睨みつける。その歳でこの殺気は大したものだ。今の彼に笑ってみせたら、きっと首がはねるだろう。それでも僕は笑った。
首ははねなかった。代わりに左胸から温かいものが流れ出す。こんなときに何だけど、彼凄いや。何にも見えなかったよ。僕逃げ足は速いけど、動態視力はもろ一般人だからなあ。あ、観察力には自信あるけどね。
ドサ、と自分の体が倒れる。赤はカーペットに染み込んでしまった。使用人さんごめんね、折角掃除したのに早速僕の血で汚しちゃった。あー、痛い。痛いなあ。痛いよ、凄く痛い。でも僕が能力を使えばなかったことになるんだよね。この痛みも、僕に訪れた死も、彼が僕を殺したという現実も。ああ、あとついでにカーペットの染みも消さなきゃね。
目の前の少年は、大きな目を更に開いてこちらを凝視している。彼はゆっくり右手を上げて、僕を指差した。駄目だよ、人を指差しちゃ。僕の注意を無視して、彼は死んだよな?と問うたので、うん死んだよと返した。

「僕魔法使いだから」

「………ふざけてんじゃねえ」

「ふざけてないよ」

現に生き返っただろう?
そう言うと彼は黙り込んだ。能力も魔法も似たようなものだから、決して嘘はついていない。ね?と笑ってみせると、少年は若干戸惑いながらもそうだな、と微笑んだ。

「それ何回でも生き返んの?便利だな」

「…どうしてそう思うの?」

「え、だって不死身だろ?」

そうか、そういう見方もあるのか。…でもね、知ってる?知らないなら知っておいた方がいい。不死身ほど悲しくて哀しくて、皮肉なことはないんだよ。…たとえばさあ、愛する人と結婚して子供産んだとするだろ?そして暫くして両親が死ぬ。次に妻が死んで、その前に親友も死んで、我が子も死んで孫も曾孫も死んで。その中で自分一人だけ生きてるなんて、それ程滑稽なことはないだろう?一人だけ時間からも運命からも置いてきぼりさ。きっと孤独死さえもさせてもらえないんだろうね。…まあこれはいつかの映画DVDからの引用だから、僕は多分時期がくれば死ねると思うけど。なんせ僕はまだたったの十八年しか生きていないからね。先のことはわからないさ。…ん?だったら知ったような口聞くなって?あはは、ごめんごめん。ただ、よく子供が愚かにも憧れる不死身の懊悩を知ってもらいたくって。…でもね、僕にこれだけは言えるよ。

「僕は君が羨ましい」

すると彼は驚いたように目を丸くした後、優しく微笑んで、言った。

「…俺の名前、キルアだから。そう呼んでよ」

そう言う彼は、きっと自分にはない光を求めているんだなとふと思った。


戯曲は奈落の底に悲しみを謡う


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