「……!?誰だよお前!」

さて困った事が二つ。一つ、広い屋敷の中迷ってしまったこと。一つ、目の前の銀髪猫目のガキんちょに物凄く睨まれて動けないこと。…いや、別に蛇に睨まれた蛙状態って訳じゃないんだけどね。ただ一歩でも動いたら、その物騒な手でぐさりといかれそうだと僕の危険感知センサーが言っているので動かないだけだ。ほら、何度も言うけど痛いものは痛いんだよね。

「…えーと、初めまして僕なまえって言います。友達のイルミに仕事頼まれて来たんだよね。君もしかしてイルミの弟?いやー、似てないね!髪の毛は染めたの?その歳でそんなことしてたら髪痛めるよー。それにしてもボロボロだね!風呂入ったら?」

「友達…………って、染めてねーし、今から風呂行くとこ!何だよ、客人ならこんなとこでフラフラしてんなよな」

「違うよ、好きでここにいるんじゃない」

迷ったんだよ。すると彼は呆れた顔をして馬鹿じゃねーのと言った。いや、それはこんなに広い屋敷なのに案内してくれなかった君の兄さんに言いなよ。

「うーん……しょうがねえな、ついて来いよ」

「え、案内してくれるの?」

「まーな、客間はこっち」

「客間…?いや、僕今君んち探険してるんだよね。こんなに広い屋敷は初めてだし!暗殺ってそんなに儲かるの?僕も始めてみようかなあ」

そう言うと彼は一瞬ポカンとした後ぶっと吹き出して笑った。兄は笑わないのに弟は笑うんだ。

「……っく、そんなこと笑顔で言うやつ初めて見た。つかお前弱そうだから無理なんじゃない?暗殺」

「失礼な。これでも一度A級首の犯罪グループから逃げ切れてるんだよ」

「ぶ、逃げたら駄目だろ」

年相応の笑顔で笑う彼を見て、改めて似てないな、と思う。それでもって自分より幾分も人間らしいと感じた。僕もよく笑うけど、人に言わせるとわざとらしい笑顔らしい。彼は極自然に笑うけど、僕とどう違うんだろう。自分では普通に笑ってるつもりなんだけどなあ。
己の両頬を左右に引っ張ると、目の前の彼は腹を抱えて笑った。コイツ、見た目によらずツボ浅いな。

「……あー、久し振りにこんなに笑った。…で、探険だっけ?案内してやるよ。…ま、その前に風呂入りたいから俺の部屋で待ってもらうことになるけど」

「わあ、本当!?ありがとう、嬉しいなあ!うん、全然構わないよ!僕なんかに構わずゆっくりお風呂に浸かるといいよ。あ、あと一応門限が四時までって決まってるから宜しくね」

「おー、……やっぱお前変わってるな」

よく言われると言うと、やっぱりと納得された。
ふと、そういえば今何時だろうと思い携帯を開く。すると画面にはこの短時間にメール十二件、着信三十件以上の表示があり、それらは全部蜘蛛の皆(大半はクロロやシャルナーク)からだった。黙って出て来た僕も悪いけど、この数は流石に鳥肌が立つなあ。…ん、あれ?何で悪いんだ?元々捕まった身なのだから、抜け出そうとするのは当然のことなのに。…そうだ、そうだよ。僕はこれで自由なんだ。仮宿を失ったのは痛いけど、あそこじゃなくても似た場所ならまだ沢山あるよね。うん、そうだよ。
無理矢理自分にそう言い聞かせ、僕は携帯の電源を切った。


旅立ちの朝が帰還の夜を忘れる日


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