ガラスのない窓から月を望む。廃墟のベッドは寝返りをうつ度にスプリンクラーが鳴り、そこらのホテルのベッドより幾分も寝心地が悪い。だがしょっちゅう野宿をしている自分にとって、そんなことはどうでもよかった。居場所も然り。雨風凌げれば廃ビルだろうが犬小屋だろうが何処でもいい。あ、やっぱ犬小屋は流石に嫌だ。
そういう訳で、己が此処から立ち去らないのは蜘蛛から逃げられない訳ではなく、単に面倒臭いからだ。いや、決して強がりなどではない。現に今だって……

「……!」

微かにこちらに向けられた嫌な感じ。微かなのは離れているからか、若しくは他の団員にばれない為か。あまり当てにならない自分の勘からすると恐らく後者だろう。気配はギリギリのところで抑えられていて誰なのか把握できない。もしかしたら自分を狙う知らない人かもしれない。蜘蛛のアジトに堂々と侵入して今の今までばれない人はそうそういないが、それでも世界は広い。いても可笑しくないよね。
いつものネジを具現化し、扉が開いた瞬間を狙う。絶に至っては常にしているので今更だ。
ギイと音を立てて、古びた戸が開き、その隙間から覗いた腕に向かってネジを投げ付ける。卑怯だとか、そんなの褒め言葉意外の何者でもないや。
しかし瞬時に別の腕が現れ、攻撃を受け止めた。正直、止められるとは思っていなくて目を丸くする。いや、此処に侵入するくらいなのだからそれくらい出来て当然なのかもしれない。死んでも元通りになるから平気だけど、痛いものは痛い。ましてこれ以上捕まるなんてごめんだ。二撃目を用意し、出て来た頭を狙って投げようとした。が、覗かせた見覚えのある顔を認識し、一気に戦意喪失する。

「酷いじゃないか、いきなり攻撃してくるなんて◆」

「…されたくないなら殺気向けながら気配消して近付いて来ないでくれるかな?」

だって面白いから、と笑うエセマジシャンに殺意を覚える。なーんて、今更か。毎度の事ながら厄介な友達を持ったと溜息をつく。

「何か用?時間考えなよなー、見てわからない?僕今から寝るつもりだったんだけど」

「ククク、君此処に来て仕事した?」

言われて仕事用の携帯を確認する。するとメールが八件、着信十二件の文字。その中の最新のものにヒソカの文字もあった。そういえばここ最近こっちの携帯は開いてなかったなあ。

「…してないけど、それが?」

じゃあ君に仕事を依頼するよ。
了解の返事を聞かずに僕を脇の下に担いで窓から飛び降りる。これでヒソカに依頼されるのは二回目だ。因みに一回目は依頼という名の品定めだったけど。

「珍しいね、何か壊しちゃった?」

「んー、正しく言うと依頼主はボクじゃないんだけどね◆」

誰、と聞かなくても、彼の交友関係は広いようで狭いから大体は予想がつく。時間が時間なので欠伸をした。別に今寝ても落とすなんて事はしないよね。目をつむる前に見上げた月は、先程より朧げだった。


ララバイ、君に子守り歌を。


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