「や」

「げ」

現在午前十一時。久し振りによく寝たと、気持ちのよい朝を迎える筈が、運悪く広間でなまえと落ち合ってしまった。しかもアイツ以外に人はいない。最悪だ。
別にこのまま部屋に戻ったり外に出てもいいのかもしれないが、何となくアイツのせいで俺が何処かに行かなければならないのは腑に落ちず、そのままなまえより少し離れた瓦礫の上に座った。煙草煙草、とポケットを漁り、いざ火を点けようと顔を上げたら、近くになまえの顔があって少したじろいだ。

「僕も好きでここにいる訳じゃないのに、その反応は酷いんじゃない?こんな僕にも一応人権ってのはあるんだよね」

そう言いながら、彼は相変わらずの押し付けがましい笑顔で隣に座った。
知るかよとなまえから顔を逸らして煙草に火を点ける。やっぱ煙草はうめえなあ、と満足げに煙を吐き出すと隣の彼はそれを奪い取り、握り潰した。

「………おい」

カチンときたのでさっきよりも声を低くして凄むが、なまえは気にせず、もしくは気付いていないのか、あちちと呑気に煙草を握り潰した手に息を吹き掛けていた。

「煙草は身体に悪いよ。まあ僕としてはフィンクスが肺ガンで死のうがどうなろうが知ったこっちゃないけど。でも知ってた?君が吸ってる主流煙よりも、僕が吸わされている副流煙のほうが何倍も有害なんだぜ。因みにこれは受動喫煙って言うんだけどね、迷惑極まりないからやめなよ」

「あ?だったらもっと離れりゃいいだろうが」

「えー?そんなこと言うなって」

折角なんだから話そうよ、フィンクスと二人きりは初めてだよね。
ニコニコ話す彼に本気で殺意が芽生えたが何とか抑える。コイツは殺しても死なねえ……いや、死ぬけど生き返るのか。そんなやつに殺すと脅すことほど無意味で滑稽なことはない。前に頭を潰して殺したことがあったが、そのあと直ぐにケロッとした顔で立っていて少し悔しい思いをしたこともあった。
それに何より、俺はコイツのことを殆ど知らない。初めこそはどんな能力の持ち主なのか気になったが、分かってからはあまりこちらから関わろうとはしなかった。寧ろしたくなかったのか。どっちにしろなまえから漂う負のオーラが、あまりにも人を引き付けなかった。

「…お前は今までどうやって生きてきた」

そう問うと彼は、少し間を置いて「頑張って生きてきた」と答えた。その時のなまえの貼り付けた笑顔の下には少し、哀愁が漂っていた気がした。
俺はそうかと相槌をうって立ち上がる。

「…てめーは好きな食べもんとかあるか?」

「え?えーと、基本雑食だけど、しいて言うなら焼肉かな」

「ふうん、じゃあ行くか」

そう言うと彼は、珍しく笑顔を崩して目を見開いた。これは貴重なものを見たと思うと同時に、やはり彼も人間なのだと実感した。

「……いいの?奢り?」

「ばあーか、食い逃げに決まってんだろ」

なまえは少しぽかんとすると、くくくと笑い出し、上手く逃げれるかなあと呟いた。

「一回俺達から逃げれてんだから大丈夫だろ」

「あーー!フィンクスになまえ!二人でどこ行くのさ」

「あ、シャルナーク」

何かを期待するような目でこちらに近寄ってくるシャルに焼肉、と答えると、彼はじゃあ俺もと言った。いつの間に仲良くなったのか、シャルとなまえは軽く挨拶がてら小突き合っている。

「いい天気だね」

そう呟くなまえは、ただの人間くさい人間以外の何者でもなかった。


彼岸花は二度死なない


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