その日はとてつもなく運が悪かった。昨晩かけておいた筈の目覚まし時計が鳴らずに寝坊、自転車を猛スピードで漕いで行けば間に合ったものを、その日に限ってタイヤがパンクさせられていた。仕方なく走って行けばいつも通る道が工事中で通れず遠回りする嵌めになり勿論バイト先には遅刻。おまけに走っている途中、道の真ん中で鞄の中身をぶちまけてしまうという何とも恥ずかしいハプニング付きだ。そしてこれまたその日に限って、レジ当番だった筈の私に雑用という雑用全て押し付ける程、店長の機嫌が頗る悪かった。原因は奥さんが彼の大切にしていた本を誤って捨ててしまった為。そんなテメェの私情なんか知るかよと内心悪態付きながらも遅刻した私も悪い訳だからとりあえず謝って雑用の仕事に就いた。今思えば、それらは予兆だったのかもしれない。神様は私に、この日は大人しく家に居ろと、数々の不幸を以って暗示していたのかもしれない。それでも、誰が今後の私の運命を予想しただろうか。そもそもそんな曖昧で不確定な理由で、就職難なこのご時世にバイトを休める訳がない。休んだ途端、即刻クビだ。私はボロボロになりながらも、週末が故に半端ない量のゴミを店の裏へ出しに出る。その時も袋に穴が空いてゴミが落ちたりした。でも私はめげなかった。もし、私がその時にめげていれば、バイトはクビになっていようとも私の本当の首は飛ばなかったのかもしれない。もし目覚まし時計が普通にかかっていれば、もし自転車がパンクしていなければ、道が工事中でなければ、店長の奥さんが彼の本を捨てることなく二人の関係が円満だったなら、私の運命は少なからず変わっていただろう。でも所詮運命は変えられないもので、変えるものは未来であって、その運命を迎えてしまった私にはもう過去を変えることなんて出来ないのだ。通り魔に襲われて若干二十年の短い人生を終えるなんて、十年前の私にも今朝の私にも想像し得なかっただろう。だが独り身の私に心残りはないし、その日は度重なる不幸で心身共に弱っていた。大した夢もない。悔しくもあるけれど、私は訪れてしまった"死"という運命を渋々受け入れることができた………ように思えた。
死に際に聞こえた、殺人犯のあの台詞を聞くまでは。








「……あ、間違えた…………………って何だあああ!」

パイプ棒を思いっ切り叩き付ければ、フェイタンはそれをひょいと軽々しく避けてみせ、これまた綺麗に着地してみせた。一々腹が立つ。彼は腰に手を当て眉を潜めて、しつこいと言った。そらそうだ。一応精神的にも追い詰めようとしているんだから。

「あれはホントに間違えたね」

「その間違えたって何、何を間違えたの。つかアンタは間違えたで人を殺すのか!お陰で私の身体は見ての通り半透明だ馬鹿野郎」

「はは、よかたな」

「…おい、今後背後には気をつけな」

すると彼は望むところね、と挑発するように笑った。くそう、くそう。とりあえずコイツをブッコロスまで私は絶対に成仏しませんから!

とんだワールドエンドだ


prv nxt


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