一人の英雄が死んだ。
…いや、英雄とは言い過ぎか。一人の老いぼれハンターが、死んだ。死因は老死。ダブルハンターというなかなか立派な生き様だった。彼の死に顔も、この世に悔い無しとでも言いたげな表情で安らかに眠っていた。全くもって、腹が立つ。彼は二ツ星がつくハンターのくせして、私が知る限り四六時中車輪を作っていた。それも、本当にダブルハンターなのか疑ってしまう程に。そのせいで私はハンターにもなって未だ車輪の作り方しか知らない。本当に迷惑な話だ。星の数は、素晴らしい車輪を作ったということで一つ、頂いた。どんなだ。弟子はいないから二ツ星になることは今はない。そしてきっと今後もない。こんなオンボロ車輪製造所なんて、私の代で終わらせてやる。
そんな感じに罵りながらも丹念に車輪を磨く私の姿は実に滑稽だろう。時には豪快に、時には割れ物を扱うかのように繊細に。これでも何十年とクソジジイの業を見続けてきたのだ。きっと私は彼と同じくらい、車輪を愛している。あ、いや、やっぱアイツ程ではないかも。
−−−ジリリリ
今日も今日とて電話が鳴る。車輪で星を貰ったのは伊達ではない。因みに車輪は車輪でも、車のタイヤや飛行機のだって含む。あのハンター協会だってご用達だ。結構繁盛している。でもやっぱり十八番は機関車の車輪。最近数が減ってきたけど、やはりあのデザインはこの世の全ての終着点だと私は思う。人が何か美しいものを追究するとき、きっと誰もが車輪に辿り着く。…なんて大袈裟なことは言わないけど、取り敢えず私はそこまで車輪に依存していた。私の生き甲斐であり生きる理由が車輪だったのだ。


「……いらっしゃいませ」

普段依頼は電話が多い為、滅多に開くことのない店の扉が開いた。入って来たのは黒髪で額に包帯を巻いた好青年。きっとあの笑顔で何人もの女性を落としてきたんだろうな、なんて考えてまたかと溜息をつく。彼はその反応を見て酷いな、とか言いながらも表情は笑っていた。

「…おばあちゃんの古書ならいつもの場所だよ」

「ああ、それもあるけど。ナマエはいつになったら俺の方を向いて喋ってくれるの?」

「いつまでもない」

これはずっと癖なのだ。コイツに限らず人と目を合わせて話すのは苦手であった。近くに車輪がある時はそれに、ない場合は何か別のものに目を向けながら話すのが私の基本スタイル。人の顔を見るときは最初のコンタクトのみ。それについてジジイによく注意されたけど、もうそれをする人はいない。よって、この癖が直ることもなくなった。……と、思われた。

「そんなんだからいつまで経っても独り身なんだ」

「余計なお世話だ」

このお節介な彼−−−クロロが現れるまでは。
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