ナマエはフェイタンの妹だ。でも多分血は繋がっていない。多分というか絶対。なぜなら彼は片言であるのに対して彼女は普通に喋るし、目付きだって鼻の形だって似ていない。唯一似ているところといえば髪の色と背の高さぐらいだ。でもその二つが似ている人くらい世界中に幾人もいるので、それだけでは兄妹と判断することは出来ないだろう。…ああ、それと、性格も大分似ていない。それでも兄妹として今まで一緒にいるのは多分、二人が捨てられた場所が同じだったから。理由はそれだけで構わない。お互いを大切に想ってるとか、そんな甘ったるい理由など、全くもって必要ないのだ。そんなので一々大切にしたところで、彼女の癖は今更直らない。


「………何してる」

「ん、ああ、お兄ちゃん」

ナマエはまた死のうとしていた。そう、"また"である。今度は一般的な自殺方法のリストカットをしているらしい。かなり深く切り裂いたようで、彼女の細い手首からは赤が絶え間無く流れ出ていた。ナマエはけして不死身なんかではない。このまま流れ続ければ確実に死ぬだろう。いつからその状態なのか、彼女の顔は既に血の気が引いて青白くなっている。彼女は今にもぽっくり逝ってしまいそうで、フェイタンは自分の眉間にシワが寄るのがわかった。彼は大の字になって倒れているナマエの、血が出ている方の腕を掴み荒々しく止血する。と同時に彼女の顔が歪んだが気にも留めなかった。そんなもの、既に日常茶飯事だったからだ。

「…あはは、またお兄ちゃんだったね」

死にかけているにも関わらず、ナマエはへらりと笑う。その笑顔がムカついて、フェイタンは握る手の力を強めた。…そう、いつもなのだ。ナマエがそろそろ死ねる、という時に毎回彼が現れ、生かされる。それについて彼女は一度だけ、フェイタンに聞いたことがあった。だがその時今までにない程の殺気を当てられ、好きで助けてるんじゃないと言われてから問うことはなかった。ナマエはあの時何故彼があんなに怒ったのか、なんとなくわかった気がしたからだ。
フェイタンは、たまたまこの近くを通りかかったシャルナークに救急箱を持って来るよう頼む。普段あまり怪我なんかしない彼等だが、ナマエの癖のおかげで医療道具を置くようになったのだ。またか、とでも言いたげな顔で駆けて行った彼を眺めながら、フェイタンは外で鳴き続ける蝉を、痛切に殺したくなった。




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季節外れでさーせん。


modoru

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テーマ「人外ファンタジー」
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